イギリスの物理学者・分子生物学者。ロンドン大学で物理学を学び、第二次世界大戦中は海軍でレーダーの開発に携わった。1947年ケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所でタンパク質構造を研究中、ワトソンと出会い、共同でDNA(デオキシリボ核酸)の構造のモデルづくりに取り組む。1953年、2本鎖のそれぞれが逆向きに走り、アデニンとチミン、グアニンとシトシンが対合する二重螺旋(らせん)構造モデルを提出した。この構造の正しさはただちに証明された。この業績で1962年にワトソン、ウィルキンズとともにノーベル医学生理学賞を受賞した。その後も、遺伝暗号が重複のない三つ組み塩基(トリプレット)によるとする考えや、タンパク質合成の機構におけるアダプター仮説など、洞察に富んだ仮説を多く提出し、分子生物学の発展に寄与した。1977年より、アメリカのソーク生物学研究所に移り、脳と意識の研究に打ち込んだ。著書に『What Mad Pursuit』(1988。邦訳『熱き探求の日々』)、『The Astonishing Hypothesis』(1994。邦訳『DNAに魂はあるか』)などがある。
[石館三枝子]
『クリック著、玉木英彦訳『分子と人間』(1970・みすず書房)』▽『フランシス・クリック著、中村桂子訳『生命――この宇宙なるもの』(1982・思索社/再装版・2005・新思索社)』▽『フランシス・クリック著、中村桂子訳『熱き探求の日々――DNA二重らせん発見者の記録』(1989・TBSブリタニカ)』▽『フランシス・クリック著、中原英臣・佐川峻訳『DNAに魂はあるか――驚異の仮説』(1995・講談社)』
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イギリスの分子生物学者。物理学出身。戦争中は海軍でレーダーの開発にたずさわる。1947年生物学に転じ,生命の本質を生気論的な瞑想を排して,構成分子の構造からとらえようと考え,キャベンディシュ研究所でタンパク質構造の研究を始めた。そこでアメリカのファージグループ出身のワトソンと出会い,DNA(デオキシリボ核酸)の構造解明の重要性を確信し,X線結晶学者M.H.F.ウィルキンズやR.E.フランクリンらの得たDNAのX線回折像およびE.シャルガフらの化学分析値などから,53年J.D.ワトソンとともにDNAの二重らせん分子構造モデルを提出する。このモデルは遺伝子がDNAであることを多くの研究者に確信させ,その後の分子生物学の方向を定め,急激な発展をもたらすことになった。その業績により62年,ワトソン,ウィルキンズとともにノーベル生理・医学賞受賞。その後,タンパク質合成と遺伝情報の分子レベルでの研究に従事し,遺伝情報の単位の非重複三連子説,タンパク質合成時のアダプター仮説など示唆に富んだ仮説を多く提出した。最近では高等生物の神経系の問題に取り組んでいる。主著に《分子と人間》(1966)がある。
執筆者:石館 三枝子
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イギリスの分子生物学者.ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジで物理学を学び,1937年卒業後,大学院に進むが,第二次世界大戦のため研究を中断し,海軍省で磁気・音響機雷に携わる.1947年以降ケンブリッジ大学で生物学に転じ,1949年医学研究会議(MRC)分子生物学部門のM.F. Perutz(ペルツ)のもとでX線回折の研究をはじめる.1951年よりJ.D. Watson(ワトソン)と共同でDNAの構造を研究し,X線回折データを中心にそれまでの既知データを総合して1953年にDNA二重らせんモデルを提唱した.翌年,タンパク質のX線回折研究でPh.D.を取得.1959年ロイヤル・ソサエティ会員.1962年WatsonおよびM.H.F. Wilkins(ウィルキンス)とともにDNAの構造とその遺伝子としての役割の解明でノーベル生理学・医学賞を受賞.その後も生体物質の構造や遺伝暗号,分子進化などの問題についてすぐれた研究成果を上げた.1977年に渡米して,ソーク研究所(カリフォルニア州にある有名な私立の基礎生物学研究所)研究教授として,記憶の分子機構・REM睡眠中の夢の機能などを研究し,1994年からソーク研究所所長を務め,のちに名誉所長になった.
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…いずれも狩猟採集生活者である。サンは隣接する牧畜民コイ・コインとともにカラハリ砂漠に住み,言語的に吸打音(クリック)という舌打ち音をもったコイサン語族として扱われているが,人種的には身長151~157cm,皮膚は黄色,髪は黒く,顔は扁平で,目がつりあがり,頭型は中頭(頭指数75~77),やせた体つきで,女性は臀部に脂肪の塊をもつ脂臀(しでん)(ステアトピジー)の形質を遺伝している。彼らをコイサン人種と呼ぶこともある。…
…話し手の数はコイ・コイン語が2万~3万人,サン語が5万人内外,サンダウェ語,ハッツァ語が合わせて1万人内外といわれている。 コイサン語族の特徴はクリックclick音(吸着音,舌打音)の存在である。クリック音は声道中の軟口蓋と奥舌による閉鎖とその前方の閉鎖の二つによってつくられる室(しつ)を舌の調節により拡大し,室の空気圧を低下させることによる外気の室への流入によって生ずる鋭い破擦音(クリック,インフラックスinflux)と,この前方の閉鎖以外の調音と呼気によって生じクリックに直続して起こる音(クリック・アカンパニメントclick accompaniment,エフラックスefflux)より成る。…
…このグループにはズールー語のほか,コサXhosa語,スワジSwazi語が属する。ズールー語の特徴は,他のバントゥー諸語の一般的特徴に加え,コイサン語族ではないにもかかわらず,3種のクリック(吸着音,舌打音),[/],[//],[!]をもつことである。これはバントゥー人が南部アフリカへ南下した当時,この地域全域で話されていたコイサン語族に属するコイ・コイン語,サン語からの借用といわれている。…
… 塩基配列がいかにしてアミノ酸配列を決定しうるのかという問題を考えるとき,その不思議さの一つは,塩基はたった4種類であり,アミノ酸は20種類もあることであった。1961年,クリックF.H.C.CrickとブレンナーS.Brennerは卓抜な遺伝的実験と理論的考察から,コドンは三つ組塩基より成立し,全部で64種(4×4×4)のコドンのうち,61種がアミノ酸に対応し,3種は読み終りの信号に対応すると報告した。同年,ニーレンバーグM.W.Nirenbergは,どのコドンがどのアミノ酸に対応するかを決定する実験を初めて行った。…
…これはウイルスの増殖に必要なのはDNAであることを示唆したものである。続いて,J.D.ワトソンとF.H.C.クリック(1953)はDNAの分析的データを完全に満足させる構造として,二重らせんモデルを提案した。このモデルは4種のヌクレオチドからなるDNA分子がいかに容易に多種類の遺伝子をつくりうるかということだけでなく,生物のもっとも重要な特性である自己増殖がどのような機構でおこるかを複雑な説明なしに人々にわからせた点で画期的なものであり,短期間にDNAを遺伝子の本体として認知させることに成功した。…
… DNAが遺伝物質であることが確定すると,次にDNA分子の中にどのように情報が蓄えられ,その情報が解読されてタンパク質さらには生体の高次構造や機能が作られるのか,さらにDNAの正確な複製はいかにしておこるのかということが問題となった。1953年に発表されたDNAの構造に関するJ.D.ワトソンとF.H.C.クリックのモデルは,これらの問題の解決にとって,画期的進歩をもたらすものであった。DNAはヌクレオチドという単位がくり返して結合したひも状分子が2本,対になってらせん構造を作っている。…
…しかし,オーガナイザーや遺伝子の本体が何かは明らかにできなかった。J.D.ワトソンとF.H.C.クリックのDNA二重らせんモデル(1953)は,遺伝子の本体を明らかにすることにより,生物学再編成の突破口を開いた。1961年に始まった遺伝暗号の解読は数年でほぼ完了し(ニーレンバーグM.W.NirenbergとオチョアS.Ochoa),遺伝情報はDNA→RNA→タンパク質の方向にのみ流れるというセントラル・ドグマ(クリック,1958)が確認され,また遺伝子発現の調節はF.ジャコブとJ.モノのオペロン説で十分説明されるように見えた。…
…1940年代以降理論物理学者M.デルブリュックに率いられて,分子遺伝学が急速に進歩し,いっぽう核酸・タンパク質などの生体高分子の構造解析の方法が発達した。53年J.D.ワトソンとF.H.C.クリックによるDNAの相補的二重らせん構造の発見,60年のペルツM.Perutzによるタンパク質として初めてのヘモグロビンの立体構造の決定がその代表的成果である。その後遺伝暗号が決定され,遺伝子の複製,転写,翻訳機構の基本的理解がなされ,分子生物学の中心ドグマと呼ばれるものが確立された。…
…デルブリュック,ルリアS.E.Luriaに代表される細菌やファージの自己増殖を研究する分子遺伝学グループ,一遺伝子一酵素説を提唱したビードルG.W.Beadle,テータムE.L.Tatumによる代謝の制御を研究する遺伝生化学的研究の開始,そしてイギリスのケンブリッジにおける,ブラッグW.L.Bragg,ペルーツM.F.Perutz,ケンドルーJ.C.Kendrewなどの学派によるX線結晶解析によるタンパク質分子の構造解析が,当時の分子生物学のすべてといってよい。これら,遺伝的,生化学的,物理学的な3学派の方法が統合される形で,1953年にJ.ワトソンとF.クリックによって,DNAの相補的二重鎖構造が解明された。DNA分子の立体構造中に,遺伝子の複製と読取りについての本質的属性が存在することに深い衝撃をうけた分子生物学者は,一方で,彼らの研究方法にますます自信をもった。…
※「クリック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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