日本大百科全書(ニッポニカ) 「クローガー」の意味・わかりやすい解説
クローガー
くろーがー
The Kroger Co.
創業は1883年と古く、その前身は卸売商である。創業者バーナード(バーニー)・クローガーBernard Henry Kroger(1860―1938)がオハイオ州シンシナティに開いた小さな商店として始まり、その後1929年には5575もの店舗をチェーン展開するまでとなった。
クローガーが業界で注目されるようになったのは1970年代に入ってからであり、当時アメリカのスーパーマーケット業界のトップに君臨していたセーフウェーSafewayをしのぐ成長率をあげ躍進を続けた。1970年代のアメリカにおける市場勢力図は、主として西部地区にセーフウェー、東部地区にA&Pがそれぞれドミナント・エリア(ある小売企業が一部に集中的に出店、かつ寡占化している商業圏、消費者に圧倒的に支持されている地域)を確立していた。一方、中央部、五大湖からメキシコ湾にいたる21州をドミナント化していたのがクローガーであった。セーフウェーやA&Pがそのドミナント・エリアにおいてかならずしも思いどおりのシェアを獲得していなかったのに対し、クローガーはコロンバス地区では38%、本部のあるシンシナティ地区では50%もの高いシェアを獲得、「重点商圏に全力を投入して、無駄な競争はしない」という巧みな戦略を展開していた。
さらに当時としては巨額な10億ドルもの投資金額を投入し、ほかの大手チェーンに先駆けて大型店舗開発に着手。以来、大型スーパーマーケットを超える売場面積(2000平方メートル以上)のスーパーストア、売場面積3300平方メートル前後の総合店コンボストア(小型のコンビネーション・ストアが多く、ドラッグ・ストアとホームセンターの組合せの場合もある)、ドラッグ・ストアのスーパーレックス等の新フォーマットを矢つぎばやに投入し、市場における地位を確固たるものにした。その一方で、業績の悪い店舗を閉鎖して、好業績が期待できる場所に新店舗を出店する「スクラップ・アンド・ビルド」を効果的に行って店舗活性化を進めている。また店長教育(人材育成)にも力を注ぎ、業界初のスーパーマーケット大学を設置するとともに、プライベート・ブランド(PB=自社開発製品)による競争力強化の取組みを行っている。
クローガーが全米スーパーマーケット業界第1位の座を射止めたのは、それまで首位の座に君臨していたセーフウェーが、1975年の第二次オイル・ショックによる不況とインフレに伴う業績悪化とともに、投資会社「ダートグループ」による買収から逃れるための莫大(ばくだい)な借入金によって一気に企業規模を縮小した1988年のことである。その後、1999年に大手小売企業のフレッドマイヤーFred Meyerを買収し企業規模を拡大するとともに、「競争と対応」の4原則(大型店舗化・グルメ化・低価格化・豊富な品ぞろえ)を満たすべく、次世代型ニュープロトタイプの約8900平方メートルものハイブリッド・メガストアを開発し、全米最大のスーパーマーケット・チェーンとしての力を誇示している。2012年1月時点で、2476のスーパーマーケット、779のコンビニエンス・ストア、393の宝石店などを展開している。2010年度の売上高は822億ドル、従業員数は33万8000人である。
[角田正博]