グルタミン酸発酵
グルタミンさんはっこう
glutamic acid fermentation
酸性α-アミノ酸の一つであるL-グルタミン酸を微生物を用いて生産する方法。グルタミン酸は調味料以外にも,アミノ酸輸液の一成分としてなど医薬品として,また合成皮革の原料として用いられる。L-グルタミン酸の製造は,小麦や大豆の蛋白質であるグルテンを塩酸で加水分解することによって行われてきたが,現在では,Micrococcus glutamicus(Corynebacterium glutamicum)などの細菌を用いて,糖蜜などの原料から発酵生産されている。生物の細胞内では種々の物質を必要以上に合成しないよう厳密な代謝調節が働いており,上記の細菌においても正常な条件下ではグルタミン酸の生産量は低い。このような代謝調節を攪乱して大量のグルタミン酸を培養液中に蓄積させるために,次のような方法がとられている。 (1) ビオチン法 糖質からグルタミン酸を生産する細菌のほとんどは,増殖するためにビタミンの一種であるビオチンを必要とする。ビオチンは,細胞膜形成に必要なリン脂質の構成成分である高級脂肪酸の生合成に重要な働きをしているが,ビオチン量が少いと正常な機能をもった細胞膜が形成されず,細胞内で合成されたグルタミン酸が次々と細胞外へ漏出するため代謝調節が行われず,培養液中へのグルタミン酸の蓄積量が増加する。 (2) オレイン酸法 ビオチンの代りに高級脂肪酸であるオレイン酸を加えてもグルタミン酸生産菌は増殖できるが,オレイン酸の添加量が少くなると正常な機能の細胞膜が形成されず,グルタミン酸の漏出が起る。 (3) グリセリン法 ノルマルパラフィンを原料とした場合,グルタミン酸生産菌はパラフィンを酸化してビオチンの関与なしに高級脂肪酸を合成できるので,細胞膜形成に異常を起させるためには,リン脂質のもう1つの構成成分であるグリセリンを欠乏させる必要がある。この目的のためには,グリセリン生合成能を欠いた変異株が用いられ,少量のグリセリンの存在下で培養することにより,グルタミン酸を蓄積させることができる。 (4) ペニシリン法 アメリカのメルク社で開発された方法で,ペニシリンを少量加えることにより,細菌を殺すことなく細胞壁の正常な合成を妨げ,グルタミン酸の漏出を容易にさせることができる。この方法は発酵原料のいかんにかかわらず (たとえば,糖蜜,酢酸,ノルマルパラフィンなど) ,また原料中にビオチンが多量に含まれている場合 (たとえば糖蜜) にも,応用することができる。 (5) 界面活性剤法 ある種の界面活性剤もペニシリンと同様な作用があることがわかっており,グルタミン酸発酵に用いることができる。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
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世界大百科事典(旧版)内のグルタミン酸発酵の言及
【アミノ酸発酵】より
…グルタミン酸,リジンなどのアミノ酸の微生物による生産の総称。
[歴史]
1956年木下祝郎らはL‐グルタミン酸を直接培地中に生成蓄積する細菌Corynebacterium glutamicumを発見し,グルタミン酸発酵の工業化に成功した。L‐グルタミン酸は化学調味料としてずばぬけて需要の多いアミノ酸で,それまではコムギまたは大豆タンパク質の塩酸による加水分解法により製造されていた。…
※「グルタミン酸発酵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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