けらし(読み)ケラシ

デジタル大辞泉 「けらし」の意味・読み・例文・類語

け◦らし

[連語]《過去の助動詞けり」の連体形推量の助動詞「らし」の付いた「けるらし」の音変化》
確実な根拠に基づいて、過去の動作・状態を推量する意を表す。
我妹子わぎもこ常世とこよの国に住み―◦らし昔見しより変若をちましにけり」〈・六五〇〉
近世文語で「けり」をやわらげていう用法
「心もとなき導師の力なり―◦らし」〈笈の小文
[補説]一説に、「けり」が形容詞的に活用したものともいう。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「けらし」の意味・読み・例文・類語

け・らし

  1. ( 助動詞「けり」に助動詞「らし」の付いた「けるらし」の変化したもの。一説に「けり」が形容詞的に活用したものとも )
  2. ある兆候の存在からその根拠となる事態の存在に気づき、その存在の可能性を推量する。…だったのだろう。
    1. [初出の実例]「吾妹子は常世の国に住み家良思(ケラシ)昔見しよりをちましにけり」(出典万葉集(8C後)四・六五〇)
    2. 「忍びて心かはせる人ぞありけらし」(出典:源氏物語(1001‐14頃)帚木)
  3. こういう条件があれば、そうなるのが道理であるという筋道を見いだして、その筋道の存在の可能性を推量する。そういう訳で…たのだろう。
    1. [初出の実例]「万代に語り継げとしこの岳(たけ)に領布振り家良之(ケラシ)松浦佐用比売」(出典:万葉集(8C後)五・八七三)
    2. 「狭莚はむべさえけらし隠れぬの葦まの氷一重しにけり〈頼慶〉」(出典:後拾遺和歌集(1086)冬・四一八)
  4. 「けり」と同意で、やわらげた表現として用いる。〔八雲御抄(1242頃)〕
    1. [初出の実例]「神明の加護かならず恙なかるべしと云捨て出つつ、哀さしばらくやまざりけらし」(出典:俳諧・奥の細道(1693‐94頃)市振)

けらしの語誌

( 1 )「万葉集」に「こそ」の結びとして「けらしき」の形があるほかは、語形変化の例がなく、すべて文終止に用いられている。
( 2 )「けり」の場合は、気づいた事態や筋道は目の前に存在したり、ありありと意識されたりすることを表わすが、「けらし」の場合、それらは、直接には確かめることができないので、存在する可能性が述べられるに止まっている。
( 3 )の用法は平安時代以降は、あまり見られなくなる。また、の用法は、近世になって多くなるが、平安時代からすでにあったらしく、藤原清輔の『和歌初学抄』に「けり」の意味だとされている。

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