鎌倉初期の歌学書。順徳(じゅんとく)天皇の著作。1221年(承久3)より前から執筆、承久(じょうきゅう)の乱(1221)後、佐渡の配所で手を加えてまとめられた。六巻。草稿本と再撰(さいせん)本とがあり、内容も若干の相違がある。巻一は正義部(六義や歌体、歌病(かへい)などの解説)、巻二は作法部(歌合、歌会や撰集などの作法に関する知識、記録を集めたもの)、巻三は枝葉部(天象、地儀以下17部についてことばをあげ、解説を加えたりしたもの)、巻四は言語部(世俗言=普通のことば、由緒言=由緒あることば、料簡言=難解なことばの三つをたてて多くのことばを解説)、巻五は名所部(名所の場所や出典を示したもの)、巻六は用意部(著者の歌論の披瀝(ひれき))。古代歌学の集大成であるとともに中世歌論の基盤となった名著で、いまでは散逸した書からの引用も多く、資料的価値も絶大である。
[井上宗雄]
『久曽神昇著『校本 八雲御抄とその研究』(1939・厚生閣)』
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…ただ,平安朝時代の美的理念をあらわす批評語であった〈あはれ〉〈たけ高し〉〈をかし〉等と比べると,〈幽玄〉〈有心〉はいちじるしく内面化の傾向を強め,思想性を濃厚にもつ点で中世的理念としての特色をもつのであって,その点を考慮に入れれば,鵜鷺系歌論書に論じられた〈幽玄〉〈有心〉もまた,歌論史の大筋をたどる上で重要な意義をもったのであった。《後鳥羽院御口伝(ごくでん)》,順徳院《八雲御抄(やくもみしよう)》は,俊成,定家の論を踏まえつつ,歌人論,作品論にあらたなる展開を示している点で注目され,鴨長明《無名抄(むみようしよう)》も,〈幽玄〉に言及している。 その後,定家の子の為家の《詠歌一体(えいがいつてい)》(偽書説もある)が平淡美を主唱し,京極為兼の《為兼卿和歌抄》が〈心のままに詞の匂ひゆく〉表現をよしとして,いっそうの心の重視を説いた。…
… 〈て,に,を,は〉の4語は古く《万葉集》にも,その文法的機能の特性がすでに意識されていたことを示す歌がみえ,今日でも使用度数のひじょうに大きい助詞であって,〈をこと点〉の点図中の主要位置を占め,1類の語の代表としてよばれるのは不思議でない。漢文訓読に際して発したのであるが,鎌倉時代には順徳院の《八雲御抄(やくもみしよう)》のように,歌学上の術語として助詞や助動詞の用法の適否を論ずるのにこの名を用いることになったのである。藤原定家の著と伝えられてきたが,鎌倉末期か室町初期の成立とみられる《手爾葉大概抄(てにはたいがいしよう)》は,語を〈手爾葉〉と〈詞〉とに大別し,対比させている点が注目される。…
※「八雲御抄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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