ゲンノショウコ(読み)げんのしょうこ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゲンノショウコ」の意味・わかりやすい解説

ゲンノショウコ
げんのしょうこ / 現証拠
[学] Geranium thunbergii Sieb. ex Lindl. et Paxton
Geranium nepalense Sweet subsp. thunbergii (Sieb. et Zucc.) Hara

フウロソウ科(APG分類:フウロソウ科)の多年草。茎は分枝して地上をはい、また多少直立し、長さ50~70センチメートルに達する。葉柄とともに下向きの開出毛が多い。葉は3~5裂し、幅3~7センチメートル、若いときは暗紅色の斑(ふ)があり、裂片の先は鈍くとがり少数の歯牙(しが)がある。葉柄は長く、対生するが、一方の柄(え)はやや長く、隣の節では反対側の柄が長い。7~10月に葉腋(ようえき)から花茎を出し、その先に2個の花をつける。花は径1~1.5センチメートル、花弁紅紫色、淡紅色または白色で紅色の脈がある。蒴果(さくか)は長さ1.2~2センチメートルで、成熟すると5裂し、果皮裂片は錨(いかり)形となる。日本、朝鮮半島、台湾、極東ロシア、中国南部の山野に普通に生える。

[長沢元夫 2020年8月20日]

薬用

多量のタンニン(葉は20%、全草では5%)とケルセチンを含有するので消炎、止血、収斂(しゅうれん)、殺菌作用をもち、大腸カタル、赤痢、胃潰瘍(いかいよう)、十二指腸潰瘍などに1日10~40グラムを煎(せん)じて服用する。よく効くので「現の証拠」という。方言としてミコシグサ、ネコアシ、イシャイラズ、リビョウソウ、イシャコロシ、ロウソクバナなどがある。

 同属の植物はすべてゲンノショウコと同じように使用することができる。たとえばイギリスに多いヒメフウロG. robertianum L.は赤痢の特効薬として民間で使われている。花期の地上部を採取することに決めているのは、同じ場所に有毒なキンポウゲ科の植物が生えており、葉形が似ていて混用されるのを防ぐためである。以前はゲンノショウコの中国名に牛扁(ぎゅうへん)や牛兒苗(ぼうぎゅうじびょう)をあてたが、これは中国産のキクバフウロErodium stephanianum Willd.であり、誤用である。中国南部からヒマラヤ地域にかけて基本亜種が分布している。

 中国ではキクバフウロ、ミツバフウロG. wilfordii Maxim.イチゲフウロG. sibiricum L.などとともに老鸛草(ろうかんそう)と称して、神経痛やリウマチによる筋骨の疼痛(とうつう)や麻痺(まひ)、打撲傷などの治療に用いている。

[長沢元夫 2020年8月20日]


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改訂新版 世界大百科事典 「ゲンノショウコ」の意味・わかりやすい解説

ゲンノショウコ
Geranium nepalense Sweet.var.thunbergii(Sieb.et Zucc.)Kudo

山野の道ばたなどに普通にみられるフウロソウ科の多年草。下痢止めとして古くから民間で使われている薬草。効きめがすぐに現れるので〈現の証拠〉と名づけられた。植物体全体に毛がある。茎は地をはってやや立ち上がり,よく枝分れする。葉は上部では3裂し,他は掌状に5裂する。花は直径1~1.5cmで,花柄の先に2個ずつつき,夏から秋にかけて開花する。花色は白,淡紅,紅紫色があり,花弁に5本の紅脈が目だつ。萼を残して花びらが落ち,しばらくすると果実は熟して,長いくちばし状の部分が縦に五つに裂け,種子をとばしながら外側に巻き上がる。その巻き上がった形が神輿の屋根に似ているので,ミコシグサとも呼ばれる。北海道,本州,四国,九州の全域に広く分布し,花の紅紫色のものは西日本に,白か淡紅色のものは東日本に多い。夏に全草をとって乾かし,煎じて下痢止めなどの民間薬にするが,葉がトリカブトなどの毒草とよく似ているので,注意が必要である。
執筆者:

中国の同属近縁植物およびフウロソウ科のErodium stephanianum Willd.の全草を老鸛草(ろうかんそう)と称し,他の生薬と配合して関節炎,急性腸炎,尿路感染症,角膜炎,産後および月経異常,婦人の腹痛,打撲症などに応用する。
執筆者:


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百科事典マイペディア 「ゲンノショウコ」の意味・わかりやすい解説

ゲンノショウコ

フウロソウとも。北海道〜九州,東アジアの草地にはえるフウロソウ科の多年草。全体に軟毛がある。葉は柄があって対生し,幅3〜7cm,深く3〜5裂する。夏〜秋,花柄の先に1対の花をつける。白または紅紫色の5弁花で,径1〜1.5cm,白色のものは東日本,紅紫色のものは西日本に多い。茎葉の乾燥したものを煎(せん)用すると下痢止めとしてよくきくので〈現の証拠〉の名がある。
→関連項目フウロソウ民間薬

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ゲンノショウコ」の意味・わかりやすい解説

ゲンノショウコ(現の証拠)
ゲンノショウコ
Geranium nepalense var. thunbergii

フウロソウ科の多年草。フウロソウ,ネコアシ,ミコシグサなどともいう。日本全土,台湾,朝鮮半島に広く分布し,しばしば雑草状になっている。茎は地面を横にはい,長さ 50cmに達し,葉柄とともに下向きの毛が多い。葉は径3~4cmの円形で掌状に浅く裂け,表面に紫赤色の斑紋をもつことが多い。7~9月頃,葉腋から花茎を出し,その先に2個の花が開く。花はウメの花に似た径 1cmほどの5弁花で,紅紫色,淡紅色あるいは白色で紅色の脈があり,地方によって変異が多い。花の咲く夏に,茎,葉をとり,陰干ししたものを煎じて,下痢止め,整腸,止血,殺菌などに民間薬として用いられてきた。ききめが著しいことから「現の証拠」と呼ばれている。

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世界大百科事典(旧版)内のゲンノショウコの言及

【漢方薬】より

…漢方薬に類似する用語に和漢薬,皇漢薬,民間薬などがあり,商業上はこれらを総括して漢方薬と呼ぶことがあるが,それぞれ,厳密には異なる内容を意味する。たとえば,ゲンノショウコ,ドクダミ等は広く日本の民間で用いられているが,使用法は漢方の場合とまったく異なるので通常,漢方薬には含めず,民間薬として区分する。また,ウワウルシ,ゲンチアナ,ジギタリス,麦角等は西洋医学では古くから用いられてきた生薬であるが,漢方薬ではない。…

【民間薬】より

…民間薬と漢方薬はこのように互いに交流があり,区別の判然としないものも多い。比較的区別の明確な薬物を強いてあげれば,ドクダミ,ゲンノショウコ,センブリなどで,これらは民間薬として広く用いられているが,漢方薬としてはあまり用いられない。一方,柴胡(さいこ),黄芩(おうごん),麻黄などは漢方薬として使用頻度が高いが,民間薬として用いることは少ない。…

※「ゲンノショウコ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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