民間薬(読み)ミンカンヤク

デジタル大辞泉 「民間薬」の意味・読み・例文・類語

みんかん‐やく【民間薬】

医薬品として公認されていないが、民間で薬として使われているものの総称。

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精選版 日本国語大辞典 「民間薬」の意味・読み・例文・類語

みんかん‐やく【民間薬】

  1. 〘 名詞 〙 民間療法に用いられる薬。症状により処方して使用する漢方薬に対し単剤で用いる。ゲンノショウコセンブリドクダミなど、草根木皮を多く用い、経験的で理論はない。
    1. [初出の実例]「インドで民間薬として使われていた植物から取り出したものがある」(出典:くすり公害(1971)〈高橋晄正〉くすり・ヘドロ)

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改訂新版 世界大百科事典 「民間薬」の意味・わかりやすい解説

民間薬 (みんかんやく)

一般大衆が医師の指導によらず,みずからの判断で用いる民間伝承の薬物をいう。世界各地に知られ,呪術的に用いられるものや,各時代に医師が使用していたもののうち,有効で処方が簡単なものが民間に流布したものなど,いろいろな起源をもつものが含まれている。代表的なものに,アフリカのヨヒンベ皮(催淫薬),北アメリカのインディアンが用いたカスカラサグラダ緩下剤),南アメリカのインカで用いられたコカ葉,イギリスのジギタリスなどがある。中国では民間薬を草薬,民間単方,験方などといい,本草書に多数が記載されているが,近年,科学的研究が盛んに行われている。

日本では民間薬に対比されるものに漢方薬がある。ともに生薬であり,人類の長い歴史を経て,植物,動物,鉱物界の多彩な天産品を病気の治療に用いる点では共通するが,漢方薬は独自の医学体系の理論を習得した医師が,特定の診断基準に基づいて用いるものである。また,漢方薬は通常,複数の薬物を配合した漢方方剤として用いられるのに対し,民間薬は大部分,単味で用いられる。民間薬という名称は明治時代になって一般化したが,それまでは救民の妙薬,俗間の秘薬,奇方,和薬,救急薬などの名称があった。808年(大同3)に,日本伝承の民間薬を集成した《大同類聚方》100巻が完成している。これは日本各地の神社や名家,古豪などの家に伝わる薬物を平城天皇が安倍真直に編纂させたものである。漢方薬と民間薬は先に述べたように明確な区別があるものの,民間薬として用いられたもののうち,効力のすぐれたものを漢方医がとり上げて漢方処方に配合して用いたため,いつのまにか漢方薬として用いられるようになったものもある。伯州散はこのような処方の一つである。民間薬と漢方薬はこのように互いに交流があり,区別の判然としないものも多い。比較的区別の明確な薬物を強いてあげれば,ドクダミ,ゲンノショウコ,センブリなどで,これらは民間薬として広く用いられているが,漢方薬としてはあまり用いられない。一方,柴胡(さいこ),黄芩(おうごん),麻黄などは漢方薬として使用頻度が高いが,民間薬として用いることは少ない。

太古から身近にあるものを利用して病気から身を守るために伝承されてきた薬物であるだけに,動・植物から鉱物に至るすべてのものが民間薬の材料になっている。当然,植物界からの薬物が最も多く,その数を正確に把握することは困難であるが,繁用されるものは300種内外と思われる。そのうち,とくに一般家庭に知られているのはゲンノショウコ,センブリ,ドクダミ,ハコベオオバコなどである。動物界のものは数が少なくなるが,毛髪など人体の一部を用いるものから,サルの頭(黒焼き),クマの胆囊,シカの角など高等動物やガマの油,イモリ(黒焼き),イカの甲,カイコの糞など多彩な動物種とその部分が用いられ,さらにはトンボ,ゲンゴロウなど昆虫類の民間薬も多い。また,鉱物では辰砂,セッコウ,鉄粉,金箔,滑石などが繁用された。

太古からの祖先の生活の知恵をそのまま伝承してきた薬物であるだけに,なかには迷信や信仰等に基づいた効果の疑わしいものもあるが,近年になって,科学的研究によって,その有効性や作用本体の成分の化学構造が判明したものが少なくない。民間薬の代表とされるゲンノショウコは,その効きめの確かさが〈現の証拠〉というところから名づけられたといわれるが,その作用本体は長い間タンニンらしいということ以外はわからなかった。近年,複雑なタンニンの構造が決定されゲラニインと名づけられた。このタンニンが胃腸粘膜の保護と腸内殺菌にとくに好都合な性質をもっており,刺激性や腐食性の強い他の植物のタンニンとは異なることがわかってきた。ドクダミは切傷や化膿に葉をもんで患部に塗布する臭気の強い薬草であるが,その成分のデカノイルアセトアルデヒドとラウリンアルデヒドが臭気の本体で,強い抗菌性が証明されている。乾燥すれば臭気は消失するが,煎じて飲む場合には別の成分のフラボン誘導体が有効成分となると考えられている。千たび振り出し(湯につけて成分を浸出させること)てもまだ苦いというところから名づけられたセンブリは,苦味健胃薬として広く愛用されているが,スベルチアマリン,スペロサイド,アマロゲンチンなどの有効成分の存在が確かめられている。ヒキオコシは倒れた病人を起き上がらせるの意味で名づけられたといわれ,弘法大師が死にかけた旅人の命をこの薬草で救ったといわれるところから延命草の別名がある。この成分はすでに13種が決定されており,その代表的化合物はエンメインと名づけられている。これらには苦味作用をはじめ多彩な薬理作用があることが確かめられている。コウホネは小川,池や沼などに自生する水中多年草で,根茎を乾燥したものが浄血,止血の目的で婦人病に用いられる。その有効成分はアルカロイドのヌファリジン,デオキシヌファリジン,ヌファラミンなどとされている。マクリは紅藻類の海藻カイニンソウを乾燥したもので,その煎汁は回虫駆除薬として用いられた。この成分はカイニン酸であることが解明され,日本の有機化学の大きな業績の一つになっている。このカイニン酸は特殊な使い方によって哺乳類の特定の神経系を興奮させ,また神経系を限局性に破壊する作用があり,神経生理学研究の貴重な試薬としても用いられるようになってきた。

 以上のように,民間薬の有用性は,その化学成分の面と薬理作用の面の両面から確実に解明が進んでおり,祖先の生活の知恵が軽視できないものであることが認識されつつある。

民間薬の有用性は日常経験しやすい軽い病気に手軽に対処できるところにある。おもな民間薬の名称,薬用部位,主要薬効を列記すると表のようになる。

(1)薬草の採取と調製 一般に植物は酷似した同属植物が多数あるので,目的の薬草の形態について確認できるようにしておかなければならない。ときに市販のものでも類似品と混同されていることがある。自分で採取する場合は,類似植物の存在を十分調べておく。たとえばゲンノショウコにはニリンソウやタチフウロなどの類似植物がある。もちろん,使用部位(葉,根など),採取時期も確かめておかなければならない。採取した薬草は一般に乾燥して用いる。ドクダミは約1ヵ月の風乾で悪臭がなくなる。一般に葉は陰干し,根,樹皮,枝,果実は天日乾燥する。特殊なものは湯通しして乾燥する。

(2)煎出と服用 一般に薬草にはタンニンを含むものが多く,鉄と反応するので煎じる容器は鉄を避け,土瓶,瀬戸びきまたはアルミの容器を用いる。定められた分量の薬草1日分を500~600mlの水で煎じ40~50分かけて半量に煮つめ,熱いうちにガーゼか茶こしでこし,その汁を2~3回に分服する。10歳くらいの小児は大人の量の半量,6歳くらいでは3分の1量でよい。服用は通常食間がよい。

(3)はり薬,塗薬 やけど,はれもの,切創や虫さされなどには薬草の外用が有効である。ただ単に生の葉を取ってきて,その生汁を患部にすり込むことを繰り返してもよい。葉をすりつぶして水と少量の小麦粉をまぜて適当な粘度にし,布に広げて患部にはる方法もある。さらに薬草を煎じた液を熱いままガーゼや布に浸して患部にあてる温湿布や,冷たくしてからの冷湿布が有効な薬草もある。

(4)黒焼き 薬草または動物性生薬を土器などに入れ,できるだけ空気にふれないように黒化するまで焼いたものを黒焼きという。ヒキガエル,アカトンボ,マムシ,ハチの巣などの黒焼きが民間薬として用いられる。

(5)薬草による中毒,副作用 民間薬は一般に作用が緩和で連用しても副作用の少ないものが多いのは事実であるが,薬草と呼ばれていても非常に危険な有毒植物があるので注意を要する。漢方薬の附子(ぶし)(烏頭(うず))の原料として有名なトリカブト類は日本各地に自生しているが,これには強烈な致死作用を有するアコニット・アルカロイドが含有されている。おめでたい名前のフクジュソウに,シマリン,アドニトキシンなどの心臓毒が含まれている。クサノオウも肝臓病や胃潰瘍の民間薬とされているが,毒性の強いアルカロイドのケリドニンやプロトピンなどを含み,家庭で用いるには危険な毒草といえる。
漢方薬 →生薬
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「民間薬」の意味・わかりやすい解説

民間薬
みんかんやく

民間療法で使用される薬物をいう。民間薬はその土地にある動・植・鉱物が利用されるため、民族や地域によって独特なものが多い。したがって、これらの薬物を調査すること(比較民族薬物学)は、新資源の開発のみならず、民族間の歴史的、文化的関係を知るうえでも役だつものである。民間薬は、一般に単味(薬物一種類)で使用されることを特色とするが、なかには、古くから複合処方で用いられてきたものもある。また、漢方をはじめとする伝統医学で使用される薬物でも、民間療法で用いられる場合には、やはり民間薬とよぶことができる。保健薬としての「人参(にんじん)」や「枸杞子(くこし)」などはその例である。民間薬のなかには優れたものも多く、ジギタリス、ベラドンナなど、近代医学に貢献しているものも少なくない。

[難波恒雄・御影雅幸]

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百科事典マイペディア 「民間薬」の意味・わかりやすい解説

民間薬【みんかんやく】

民間伝承の薬用天然物で,同じ伝統医薬でも古典的漢方処方によらずに用いられる。漢方薬と比べて大部分が単味で用いられ,ゲンノショウコドクダミセンブリなどを指して言うことが多い。民間薬と漢方薬とは画然たる区別がなく,現代中国では草薬の名称で中薬と区別し,中草薬として一括して取扱っている。
→関連項目黒焼き民間療法薬用植物

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「民間薬」の意味・わかりやすい解説

民間薬
みんかんやく

医師の診断,処方,指示を経ないで,医療効果があるとして一般民間で広く使われている薬物。漢方薬と民間薬として使用される生薬には共通のものがあるが,後者は,たとえばゲンノショウコ,ハブソウ,クコのように,単味,単剤で用いられるものが多い。特殊な伝承的な使用法としては,薬湯 (浴剤) ,腰湯 (座浴) ,薬酒 (くこ酒,まむし酒,梅酒,松葉酒) ,黒焼 (梅干しの黒焼など) の類がある。

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世界大百科事典(旧版)内の民間薬の言及

【漢方薬】より

…漢方という言葉は,江戸時代に,オランダから伝えられた医学を蘭方と呼んだのに対して,従来中国より学んで日本に同化した医学の呼称として造られた。漢方薬に類似する用語に和漢薬,皇漢薬,民間薬などがあり,商業上はこれらを総括して漢方薬と呼ぶことがあるが,それぞれ,厳密には異なる内容を意味する。たとえば,ゲンノショウコ,ドクダミ等は広く日本の民間で用いられているが,使用法は漢方の場合とまったく異なるので通常,漢方薬には含めず,民間薬として区分する。…

【生薬】より

…また医薬品として利用されるものは,成分製剤原料であるとの考え方からdrug materialという言葉もよく使われる。 生薬に関連する日本語の用語として薬用植物,薬草,漢方薬民間薬,和漢薬などがある。薬用植物と薬草はほぼ同意義に使われるが,薬用植物中には薬木(やくぼく)も,またアメリカでは抗生物質を生産する放線菌なども含めている。…

【薬用植物】より

…さらに,分離した単一物質の類似化合物を合成化学的に製造し,各種試験を経た後に医薬品とされることもある。日本では抗生物質製剤や,合成医薬品を開発し,製造する技術を有する一方,伝統的な和漢薬(生薬)が市場にあふれ,漢方的にもまた,民間薬的にも使える状況にある。また漢方製剤には合成医薬品などと同様に保険薬としての取扱いを受けるものもある。…

※「民間薬」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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