トリカブト(読み)とりかぶと(英語表記)aconite

翻訳|aconite

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トリカブト」の意味・わかりやすい解説

トリカブト
とりかぶと / 鳥兜
aconite
monkshood
wolfbane
[学] Aconitum

キンポウゲ科(APG分類:キンポウゲ科)の多年草。植物としてはもっとも強い毒を含み、天然物としてはフグ毒に次ぐという。名は、花の形が烏帽子(えぼし)に似ることによる。単にトリカブトというときは、トリカブト属植物総体をさす場合と、中国原産で園芸に用いられるハナトリカブトを特定する場合がある。トリカブト属は、北半球の温帯から寒帯に約300種あり、二年生の根をもつ狭義のトリカブト類と多年生の根をもつレイジンソウ類に大別される。花は左右相称、青紫色のよく目だつ5枚の萼片(がくへん)と、それらの内部に蜜腺(みつせん)に変形した花弁があり、マルハナバチ類による送粉に適応して進化した植物群である。

 トリカブト類は日本に約30種あるが、種を識別する手掛りとしては、葉の概形(円形か五角形か)、花柄の毛(あるかないか、ある場合は屈毛か開出毛か)などの特徴が重要である。関東から中部地方、中国地方から四国、九州のそれぞれの山地丘陵に生えるヤマトリカブトタンナトリカブトホソバトリカブトがもっとも目に触れる機会が多い種類で、いずれも花柄に屈毛が生え、葉は五角形である。ホソバトリカブトは葉が円形で切れ込みが深く、花柄に開出毛がはえ、本州中部地方の代表的な高山植物の一つである。日本産の種は多くは有毒であるが、サンヨウブシのように無毒の種もある。また有毒種であっても、産地によって毒力に差がある。

[門田裕一 2020年3月18日]

薬用

トリカブト類は全草に毒性の強いアコニチン系アルカロイドを含んでいるが、実用に供されるのは根である。漢方では、根を附子(ぶし)または烏頭(うず)と称し、鎮痛作用のほか、冷えと虚脱状態を治す作用を生かして、神経痛、リウマチ、激しい下痢、新陳代謝機能の衰弱、体温や血圧の下降などの治療にあてる。これらの適応症でない場合には、微量でもひどい中毒症状を引き起こすので注意が必要である。中国では紀元前から加熱して減毒する方法を用いており、減毒したものを炮附子(ほうぶし)と称する。なお、熱病にかかっても熱感を覚えず、悪寒を強く訴える状態では、多量服用しても中毒しないため(漢方ではこれを陰証とよぶ)、附子の適応症とされている。

[長沢元夫 2020年3月18日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トリカブト」の意味・わかりやすい解説

トリカブト(鳥兜)
トリカブト
Aconitum chinense; Chinese aconite

キンポウゲ科の多年草。中国原産でハナトリカブトとも呼ばれ,観賞用に日本各地で栽培されている。塊根は倒卵形で地中にまっすぐに伸び,茎は円柱形で直立し 1mほどになる。厚く光沢のある葉が互生し,掌状に深裂し裂片にはあらい鋸歯がある。8~9月に,茎の上部や上方の葉腋に総状花序をなして多数の紫色花をつける。花柄には開出した毛が多い。萼片は5枚で花弁状をなし,花弁は2枚で萼片の中に閉ざされ蜜腺状になる。おしべ多数,めしべ3~5本で花後に袋果となる。種子は楕円形で多数のひだがある。この類の植物は一般に有毒植物で特に根に猛毒がある。塊根は烏頭 (うず) または附子 (ぶし) と呼ばれ,昔アイヌが熊狩の際に毒矢として用いたのは有名である。日本にはヤマトリカブト (山鳥兜)などの近縁種が多数自生している。

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