タンニン(読み)たんにん(英語表記)tannin

翻訳|tannin

デジタル大辞泉 「タンニン」の意味・読み・例文・類語

タンニン(tannin)

一般に、水溶液が強い収斂しゅうれん性をもち、皮をなめす性質のある物質の総称。数種の有機化合物混合物植物界に広く存在し、俗に渋ともいい、五倍子ふし没食子もっしょくしに多く含まれる。皮なめし剤・媒染剤・インクなどに利用。

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精選版 日本国語大辞典 「タンニン」の意味・読み・例文・類語

タンニン

  1. 〘 名詞 〙 ( [オランダ語] tannin ) 一般に植物の樹皮、枝葉、果実、心材、根などから水で抽出して得られるなめし性のある物質の総称。特にカシやヌルデなどにできる没食子(もっしょくし)五倍子(ふし)には多く含まれる。鞣質(じゅうしつ)または渋(しぶ)ともいい、水によく溶け、獣皮と結合して皮の角質化をおさえ、長期間にわたって腐敗しない状態の革(かわ)に変化させる作用をもつ。皮なめし剤のほか、媒染剤・収斂(しゅうれん)剤・インク製造などに利用される。タンニン酸。〔植学啓原(1833)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「タンニン」の意味・わかりやすい解説

タンニン
たんにん / 単寧
tannin

鞣質(じゅうしつ)ともいう。動物の生皮を革になめす性質をもつ一群の収斂(しゅうれん)性の植物ポリフェノールに対する慣用的総称名。濃度の差はあるが植物界に広く分布し、木部・樹皮・葉・果実・根などに含まれ、ブナ科植物やヌルデなど特定の樹木の樹皮や虫瘤(むしこぶ)(没食子(ぼっしょくし/もっしょくし)、五倍子(ごばいし))にとりわけ高濃度に存在する。また果実や種子では未熟なものに多い。タンニンのフェノール基がタンパク質のペプチド鎖アミノ基-NH2と水素架橋されるため、タンパク質、とくにコラーゲンと強く結合する。またアルカロイドと不溶性の沈殿をつくり、鉄(Ⅲ)イオンと反応して緑色または紫黒色の錯化合物を形成する性質がある。植物体内での生理機能としては、生体防御作用があげられる。微生物が植物体の細胞壁を壊すために分泌する加水分解酵素と結合し、その機能を抑えることで微生物による病害を防ぐことや、草食動物の胃腸内消化酵素と結合し、消化機能を阻害することにより食害を抑えることなどが考えられる。

[上原亮太・馬渕一誠]

分類

加水分解型タンニンと縮合型タンニンに大別される。加水分解型タンニンは酸・アルカリ・タンナーゼ(タンニンの分解酵素)により加水分解され、没食子酸・エラグ酸(抗酸化作用をもつポリフェノール類の一種)などを生成する。縮合型タンニンは重合して不溶性、褐色のフロバフェン(色素)を生じる。緑茶のカテキン類や柿渋(かきしぶ)のロイコアントシアンなどがその例であり、収斂性の渋みがある。これは粘膜と唾液(だえき)のタンパク質にタンニンが結合することによる。

[上原亮太・馬渕一誠]

製法

粗タンニンは、五倍子や没食子などを煮沸して不溶性物質を除いたのちの赤褐色の粘性の大きい液体を蒸発乾固して得られる。さらに、これからアルコール・エーテル混合物で抽出し、精製することができる。いくつかのタンニンはすでに単一物質として結晶状に単離されているが、多くは数種の混合物で白色ないし淡褐色の不定形粉末として得られている。

[上原亮太・馬渕一誠]

用途

皮革製造用、媒染剤(織物を染める際の色留め)、紙のサイズ剤(にじみ留め、防湿剤)、ゴムの凝固剤、また万年筆のブルーブラック・インクの製造などタンニンの工業的用途は広い。皮をなめすと、獣皮のおもなタンパクであるコラーゲンにタンニンが結合し、微生物による分解が防がれる。インク製造は鉄(Ⅲ)イオンとの錯化合物形成反応を利用したものである。また、収斂作用に由来する消化器系への消炎・止瀉(としゃ)効果から胃腸薬、止瀉薬にも使われている。

[上原亮太・馬渕一誠]

食品

食品に含まれるタンニンには渋味の原因物質から、色素やあくの成分まで幅が広い。カテキンやクロロゲン酸などが主成分で、多数のポリフェノール類が結合して高分子となったものと低分子のものとがある。一般に渋といわれるのはこの高分子のタンニンで、カキ、チャ類に多く含まれる。一方、リンゴ、モモ、ナシ、ゴボウ、蓮根(れんこん)など多くの野菜、果物には低分子のタンニン系色素が含まれている。これらの色素は酵素や鉄分によって褐色、黒色などに変色する性質がある。

 タンニンは食品のもつ風味や色合いに関係する。タンニンの構成成分によって渋味や苦味の程度が異なる。その一例として、没食子酸が結合したタンニンは渋味があり、また、クロロゲン酸類が結合すると苦味を呈する(例、コーヒーのカフェタンニン)。紅茶、緑茶、コーヒーなどは、タンニンのもつ渋味、苦味、色調をコントロールすることによって嗜好(しこう)性をつくりだしている食品である。

河野友美

『大柳善彦・吉川敏一編『フリーラジカルの臨床』(1990・日本医学館)』『三橋博他編『天然物化学』(1992・南江堂)』『寺田昌道著『柿渋クラフト――柿渋染めの技法』(2000・木魂社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「タンニン」の意味・わかりやすい解説

タンニン
tannin

動物の皮を,通水性,通気性に乏しい革にすることができる植物成分。渋(しぶ)ともいう。原料は樹皮,実,葉,木部などで,多くはこれらの熱水可溶物である。2000年も昔から知られていたが,タンニンという名は18世紀末につけられ,以来,多くの物質がタンニンとよばれてきた。近年,植物起源の水溶性フェノール類が,鞣皮(じゆうひ)性があるなしにかかわらずタンニンとよばれることも多い。

 日本のタンニン資源としてはカシワやツガの樹皮が著名で,漁網の染料としても使われていた。しかし近年は南アから輸入されるワトルが樹皮起源のタンニンのすべてを占める。これらはおもに革なめし剤として使われている。木部起源のタンニンとしては南アメリカ産のケブラコquebracho(ウルシ科)が日本では使われている。柿渋タンニンはカキの実からとったもので,渋紙の製造,染料などとして使われている。木の実のタンニンとしては,ほかにジビジビdivi-divi(マメ科),ミロバランmyrobalan(シクンシ科)がある。葉からとれるタンニンとしてはスマックsumac(ウルシ科)が著名である。樹木の若枝のつけ根にできる虫こぶは珍しい自然現象である。その主要成分がタンニンで,ヌルデにできたものが五倍子,カシワにできたものが没食子とよばれている。これらは人間の胃の収れん作用をもち,健胃剤として使われる。タンニンは,資源植物の種類により,性状がかなり違っている。したがって用途により仕分けて使われている。

 動物の皮をなめす作用をもつということが,植物成分のなかにタンニンというグループをつくる基礎となった定義であるが,その作用は,タンニン濃度が小さいときには必ずしも目でみて明らかではない。そこで他の方法でタンニンを定義し,定量する試みが多く行われた。その際使われた性質は,水に溶けること,タンパク質と結びつくこと,結びついたものが沈殿することなどである。この基準で植物成分を調べると,ひじょうに多くの植物体にタンニンの存在することが明らかになった。チャの葉の成分もタンニンとして定量され,茶を味わうのは,多くの場合,タンニンによる渋みを味わっているというようにいわれるのはその一例である。

 タンニンの化学的組成が明らかにされ始めると,定義はいっそう拡大した。すなわち,タンニンには必ずポリフェノールという化学構造があるので,タンパク質との結合にかかわらず,植物起源の水溶性ポリフェノールがすべてタンニンとよばれるようになった。植物のエキスが鉄で色のつくとき,タンニンのためというのはその一例である。

 タンニンが植物にとってどんな役をはたすかということは明らかではないが,考えられることの一つは微生物と結びついてその侵入を抑えること,他は動物に渋みを与えて食欲を抑えることである。植物のうち,樹木がとくにタンニンを含むが,その理由としては,大地に落ちた葉や実のタンニンが土壌内の微生物,有機物と結びつき,樹木に適した環境をつくりあげることが考えられている。また樹皮のタンニンは膜をつくりやすいので,樹体を風雨から守る。

 タンニンが皮なめし以外にも多くの用途をもつことは,経験的にわかっていた。このことと,タンニンの化学的組成との関係を明らかにする努力が払われ,近年多くの知見がえられるようになった。

 タンニンには,酸によって分解し糖が生ずるものと,そうでないものとがあることは古くから知られていて,前者は加水分解型タンニンとよばれる。五倍子や没食子のタンニンがこれに入る。そのほか,民間薬として使われるゲンノショウコ,アカメガシワ,ザクロの果皮,訶子(かし)(またはミロバラン)などのタンニンも加水分解型である。以上の例からわかるように,薬用となるものが多い。加水分解型以外のタンニンは従来縮合型タンニンとよばれてきたが,近年,この定義が適切ではないことがわかり,さらに二つの型にわけられている。その一つは,プロアントシアニジンとよばれ,酸でアントシアニジン系色素(花の色素など)をつくるものである。スギ,ヒノキなど針葉樹の樹皮に存在する。またワトル,ケブラコなど従来皮なめしに使われていた樹皮や材のタンニンも,多くの場合これに属する。プロアントシアニジンは化学反応を受けやすい構造をもつので,化学的に変性され,さまざまな用途に使われている。例えば石油井戸の掘削助剤がある。プロアントシアニジンの変性物は泥とくっつき,沈殿して井戸の壁面を覆う。このため泥が掘削液から除かれ,かつ壁面からの水もれが減り,作業がしやすくなる。そのほか,接着剤,地盤安定剤など大規模利用の例が多い。縮合型タンニンのもう一つのグループは,プロアントシアニジンと加水分解型タンニンとの中間の構造をもつ。酸で分解するが,糖は生じない。柿渋やチャ,ダイオウ,ユキノシタのタンニンがこれである。しかしこれらは縮合型というより第3の型というべきであろう。
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百科事典マイペディア 「タンニン」の意味・わかりやすい解説

タンニン

水溶液が鞣皮性を持つ植物成分で,多数のフェノール性水酸基をもつ芳香族化合物の総称。分子量は600〜2000ぐらい。収斂(しゅうれん)性の味をもつ。ピロガロールタンニン,カテコールタンニンに大別される。多くの植物の木部,樹皮,葉などにあり,特にカシヌルデなどの虫こぶには多量に含まれる。タンパク質,ゼラチンを水に不溶の物質に変える性質をもつため,皮のなめし剤とされ,第二鉄塩によって黒色沈殿を生ずるためインキ製造に利用。また五倍子,没食子などから得られるものは収斂薬,解毒薬として利用される。→
→関連項目カテキン止血薬タンニンなめし(鞣)鉄剤薬用植物

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化学辞典 第2版 「タンニン」の解説

タンニン
タンニン
tannin

広義のタンニン酸と同義語である.ガロタンニンともいう.ブナ科ナラなどの樹皮,ウルシ科植物ウルシなどの葉,熱帯産植物カリロクの果実など,植物界に広く分布し,多数のフェノール性ヒドロキシ基をもつ,構造の複雑な芳香族化合物の総称.構造的には,フラバノール骨格が重合した縮合型タンニンと,没食子酸やエラグ酸などフェノール性カルボン酸が糖とエステル結合した可溶性タンニンとに大別される.淡黄色または淡褐色の不定形粉末で,わずかに特有の臭いと収れん性の味をもつ.空気中で光によりしだいに暗色にかわる.アルブミン,デンプン,ゼラチン,多くのアルカロイドおよび金属塩と沈殿をつくり,鉄塩により青黒色を呈する.水に易溶,アルコール類,アセトンに可溶,ベンゼン,エーテル,クロロホルムなどに不溶.媒染剤,皮なめし,インキ,印刷,写真用に用いられる.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タンニン」の意味・わかりやすい解説

タンニン
tannin

植物界に広く存在し,皮革のなめしに用いられる渋の総称。普通は没食子 (もっしょくし) や五倍子などの虫こぶから抽出された黄色粉末状物質をいう。収斂性の味をもち,鉄塩と反応して青黒色の沈殿を生じる。加水分解により没食子酸と少量のグルコースを生じる。鞣皮剤,媒染剤として古くから知られ,インキの製造にも用いられる。

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栄養・生化学辞典 「タンニン」の解説

タンニン

 植物の褐変に関与するポリフェノール.獣皮をなめす性質がある.柿渋はその一つ.茶のタンニンはカテキンとよばれるタンニンの一群に属し,獣皮をなめす性質は弱い.⇒カテキン

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世界大百科事典(旧版)内のタンニンの言及

【有用植物】より

…染料植物は特に衣服の加工や装飾に重要な役割を果たしていた。染料と同じような目的に多用されたものに,タンニンがある。これは特に動物の皮のなめしに重要な役割を果たしただけでなく,防腐用,表面保護用にも用いられた。…

※「タンニン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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