改訂新版 世界大百科事典 「コア構造」の意味・わかりやすい解説
コア構造 (コアこうぞう)
建物の便所,階段,エレベーターなど,付属的な施設として必要なものを各階の同じ位置に集中して設け(サービスコアと呼ぶ),これを耐震壁や柱などの構造部材(構造コアstructural coreという)として活用する建築構造計画の一手法。事務所建築の場合,事務室を目的空間と呼び,その目的空間の自由度を高めるように計画するのが近代建築の傾向である。便所,階段,エレベーターなどをサービスコアとして設け,目的空間の中には柱や固定的な壁を設けないようにすれば,そこにいろいろな大きさの部屋や机が自由に配置でき,目的空間の自由度を高めることが可能になる。建物は高さが高くなるほど重量や壁面が大きくなり,地震や風によって引き起こされる水平力も大きくなるので,これに対処できるような構造体とするためには建設費が高くなってしまう。そこで,自由度の高い無柱空間をもつ高層建物を経済的に建てるための構造形式がいろいろと考えられており,サービスコアを耐震壁などで固めたコア構造もその代表的なものの一つである。コアの平面的位置にはさまざまな形式があるが,地震地域に建つ建物では,力学的性状が複雑な平面的に非対称なコアは構造コアとして活用しにくい。コア構造は高層ビルの事務所,ホテル,アパートだけでなく,低層の住宅にも使われている。
沿革
サービスコアの考え方はアメリカで生まれたもので,1930年に竣工したクライスラー・ビル(ニューヨーク。77階),33年のRCAビル(ニューヨーク。70階)などは中央コアで設計されており,1932年のガルフ・オイル・ビル(ピッツバーグ。37階)では無柱空間の事務室が作られた。日本では1921年の日本興業銀行で耐震壁が設けられ,その効果が2年後の関東大地震で実証されたが,コア構造の出現は丹下健三による58年の東京都庁舎まで待たなければならなかった。彼はさらに58年の香川県庁舎で坪井善勝の構造設計によって,より明快にコア構造を実現させた。74年の新宿三井ビル(55階)ではコアの考え方を二つに分け,エレベーター,階段などの固定的な所をハードコアとし,空調設備関係の経年変化のある所をソフトコアとして,前者だけを耐震壁で固めて構造コアとしている。
特徴
コア構造は自由な使い方のできる目的空間を確保しやすいという特徴をもっている。事務室は大部屋や,会議室,個室などの小部屋の配置が会社ごとに異なり,また年とともに要求が変化するものである。したがってコア構造は事務所建築においてもっとも多く用いられている。事務所建築では1階の玄関ホールもたいせつな部分であり,コア構造は地震地域でも開放的なピロティを可能とする。分散コアだけを構造材として,そのほかには柱をまったく設けない建物や,中央コアから周辺の床をつる建物もある。コア構造の建物が高くなると,構造コアの連層耐震壁を周辺の骨組みと剛に結ぶことにより,耐震壁を建物の心棒として地震のエネルギーを分散することができるので,ねばりのある耐震構造とすることができる。
執筆者:村田 義男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報