コーンバーグ(読み)こーんばーぐ(英語表記)Arthur Kornberg

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コーンバーグ」の意味・わかりやすい解説

コーンバーグ(生化学者)
こーんばーぐ
Arthur Kornberg
(1918―2007)

アメリカの生化学者。ロチェスター大学卒業。1947年メリーランド州の国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)で酵素および代謝研究部主任。1953年ワシントン大学、1959年スタンフォード大学の教授。補酵素NADFAD)の生合成や、核酸を含む中間代謝の酵素学的な研究に大きな業績をあげたのち、DNAデオキシリボ核酸)の複製の研究に全力を集中した。1956年大腸菌からDNAポリメラーゼを分離精製し、これに大腸菌のDNAおよび4種類のヌクレオチドを加えて、無細胞系で人工的にDNAを合成することに成功し、またこの系で、生物活性のある1本鎖ファージの全合成にも成功した。この業績により、無細胞系でのRNAリボ核酸)合成に成功したオチョアとともに、1959年、ノーベル医学生理学賞を受賞した。その後の研究によると、この酵素(DNAポリメラーゼⅠ)は、大腸菌染色複製に際してのDNA鎖の伸長には関与しておらず、これには別のポリメラーゼ、ポリメラーゼⅢが必要であることがわかった。ノーベル賞の対象となったポリメラーゼⅠの発見ののちもファージ、大腸菌染色体の複製開始点を含むミニクロモソームなどを用いて、試験管内でのDNA合成機構の解明に貢献し続けた。著書に『DNA Replication』(1980年、第2版1992年。『DNA複製』)、『For the Love of Enzymes』(1989年。邦訳『それは失敗からはじまった』)などがある。

[石館三枝子]

『新井賢一監訳、正井久雄・中山直樹訳『それは失敗からはじまった――生命分子の合成に賭けた男』(1991・羊土社)』『アーサー・コーンバーグ著、上代淑人監修、宮島郁子・大石圭子訳『輝く二重らせん――バイオテクベンチャーの誕生』(1997・メディカル・サイエンス・インターナショナル)』『DNA Replication(2nd ed.)(1992, W. H. Freeman, New York)』


コーンバーグ(化学者)
こーんばーぐ
Roger D. Kornberg
(1947― )

アメリカの化学者。スタンフォード大学で博士号を取得。スタンフォード大学医学部教授。「真核生物転写の分子的基礎に関する研究」で2006年にノーベル化学賞を受賞した。

 人間を含む真核生物は、遺伝情報によって生命現象を営んでいる。遺伝情報は細胞核の中にあるデオキシリボ核酸(DNA)に記録されている。これが活性化するためには、いったんリボ核酸(RNA)に写し取られるが、これを転写transcriptionとよんでいる。転写された情報をもとに、タンパク質が製造されて生命現象が展開されている。コーンバーグは、転写の分子的なメカニズムを初めて解明した。転写を制御する酵素はRNAポリメラーゼとよばれており、その存在は以前から知られていた。しかしこの酵素は構造が複雑で未解明の部分が多く、どのようなメカニズムによって転写を実行するかわからなかった。コーンバーグは、RNAポリメラーゼの結晶を作成することに成功し、電子顕微鏡やエックス線解析などを駆使して分子構造を解明することに成功した。さらにRNAに転写するときのスイッチの役割をしているタンパク質も発見して一連のメカニズムを解き明かした。この転写はすべての生命体に必要なものであり、癌(がん)や心臓病などさまざまな病気にかかわっていると推測されており、病気の原因解明や治療法の開発につながるものと期待されている。

 コーンバーグの父親のアーサー・コーンバーグは、「DNAおよびRNAの生合成の仕組みを明らかにした功績」で、1959年にノーベル医学生理学賞を受賞している。親子で受賞した6番目の例である。

[馬場錬成]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コーンバーグ」の意味・わかりやすい解説

コーンバーグ
Kornberg, Arthur

[生]1918.3.3. ニューヨーク,ブルックリン
[没]2007.10.26. カリフォルニア,スタンフォード
アメリカ合衆国の生化学者。ニューヨーク市立大学からロチェスター大学に進み,1941年学位取得。国立衛生研究所 NIH勤務 (1942~53) ののち,ワシントン大学微生物学教授 (1953~59) ,スタンフォード大学生化学教授 (1959) を歴任。国立衛生研究所時代に補酵素や中間代謝の研究を指揮し,電子伝達に重要な役割を果たすFADや DPN(NAD)の組成や細胞内での反応の発見に貢献した。その後も,生体のヌクレオチド生産,DNAおよび RNAの合成について研究を続け,DNA生成過程におけるヌクレオチド組成の問題に取り組み,培養した大腸菌から抽出したヌクレオチドにアイソトープで標識して酵素の作用の証拠をつきとめた。単離・純化した酵素 (DNAポリメラーゼ,コーンバーグ酵素として知られる) を用いて試験管内で DNA分子の正確な複製を合成させることに成功し (1956) ,遺伝機構解明のその後の発展の基礎を築いた。この業績により,1959年にセベロ・オチョアとともにノーベル生理学・医学賞を受賞した。 2006年には息子のロジャー・コーンバーグがノーベル化学賞を受賞した。

コーンバーグ
Kornberg, Roger D.

[生]1947.4.24. ミズーリ,セントルイス
アメリカ合衆国の化学者。ハーバード大学で化学を専攻し,1967年に卒業。 1972年スタンフォード大学で博士号を取得。 1976~78年ハーバード大学医学部に勤務したのち,1978年からスタンフォード大学の教授を務める。 2006年真核生物 (真核細胞 ) の遺伝子情報転写に関する分子的基礎研究が評価されノーベル化学賞を受賞。デオキシリボ核酸 DNA上の遺伝情報がどのようにリボ核酸 RNAに書き込まれるかを研究,解明した。遺伝情報と蛋白質合成を結びつける転写が巧妙に制御されているならば身体の各組織で異なる遺伝情報の使用が可能で,問題があれば致死的になるか病気を引き起こすことになる。コーンバーグは真核生物で転写を司る分子である RNAポリメラーゼ (RNA合成酵素) がどのように働いているかを電子顕微鏡とX線回折を使って明らかにした。父のアーサー・コーンバーグもノーベル賞 (生理学・医学賞) を受賞しており,ノーベル賞史上7組目の親子受賞となった。

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