DNA複製やDNA修復に必須の酵素であり,すべての細胞に含まれている。ヌクレオチドを重合して,長いDNA鎖を合成する。1958年コーンバーグA.Kornbergらにより大腸菌から発見され,以後,多くの生物でその存在が確認されている。反応には鋳型が必要であり,4種類のヌクレオチドの重合順序は,A-T,G-C対合の規則により鋳型に指定されたとおりに進む。デオキシリボヌクレオシド-5′-三リン酸からピロリン酸を遊離し,リン酸ジエステル結合により重合していく(図参照)。重合の方向性は常に図に示したように5′→3′であり,3′→5′方向の重合を触媒するDNAポリメラーゼは知られていない。最もよく研究されている大腸菌の場合,3種類のDNAポリメラーゼ(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ)がある。このうち,ポリメラーゼⅠはDNA修復におもな役割をもち,ⅢはDNA複製に必須である。Ⅱの機能は不明であり,これがなくても細胞は増殖できる。
これらのポリメラーゼの大きな特徴は核酸分解酵素としての活性も併せもっていることである。とくに3′→5′方向(重合と逆方向)の分解活性は〈校正機能〉との関連で重要である。これは,正しくないヌクレオチドが重合された場合,3′→5′ヌクレアーゼ活性によってそのヌクレオチドを除去し,再び正しいヌクレオチドを重合し直すものである。この機能は遺伝情報の複製の正確さを増すために重要である。哺乳類の場合も,細胞には複数の種類のDNAポリメラーゼが含まれている。DNAポリメラーゼαは複製のために,βは修復のために機能していると考えられている。また,DNAポリメラーゼγはミトコンドリアに含まれるDNAの複製に関与している。なお,以上挙げたDNAポリメラーゼはDNAを鋳型として用いるが,ある種のRNA癌ウイルスのもつDNAポリメラーゼはRNAを鋳型として用いることがわかっている。
執筆者:丹羽 修身
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
EC 2.7.7.7.DNAまたはRNA分子中の塩基配列を鋳型とし,5′-デオキシリボヌクレオチド三リン酸(dATP,dGTP,dCTP,dTTP)を基質とし,プライマー(起動物質)存在下で,核酸の3′-OH末端にデオキシリボヌクレオシド一リン酸を重合させ,鋳型核酸の塩基配列と相補性を有するDNAを合成する酵素.
Mg2+,または Mn2+ を必要とする.大腸菌より抽出されたDNAポリメラーゼⅠは,DNA合成以外に次の反応を触媒する.
(1)二リン酸交換反応,
(2)エキソヌクレアーゼ作用.
分子量1.09×105 で,4種類の塩基の結合する部位は1か所で共通である.トリプシンで消化すると分子量7.6×104 と3.4×104 に分かれる.すべての細胞の細胞質,核質,ミトコンドリア,リボソーム中に存在する.1970年,RNA腫瘍ウイルス中にRNAを鋳型とし,DNAを合成するRNA依存DNAポリメラーゼが発見され,逆転写酵素と命名された.[CAS 9012-90-2]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…したがって,新しく作られたDNA分子は古い鎖と新しい鎖がより合わさっていることになる。DNA複製には必ずDNA合成が伴うが,これを行うのがDNAポリメラーゼという酵素である。この酵素によって触媒されるDNA鎖の伸長は一方向にしか起こらない。…
※「DNAポリメラーゼ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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