かつて〈大鼻カモシカ〉と呼ばれたほど鼻の大きい奇妙な顔の偶蹄目ウシ科の哺乳類。カフカスからキルギスを経てモンゴルに至る草原(ステップ)に分布。体長98~143cm,尾長6~12cm,体高57~79cm,体重26~69kg。角は雄にだけあり,半透明の淡黄白色で長さ28~30cmになる。大きな鼻は鼻腔内に粘膜で覆われた広がりがあるためで,これは呼吸に際して,乾燥した冷たい空気を適度に暖め湿気を与え,また砂塵を除去する働きがあるといわれる。ひづめの間,目の下,下肢の付け根に臭腺があることなどから,カモシカ類とレイヨウ類の中間的な存在とされる。夏毛は黄褐色,冬毛は黄白色で長く羊毛状。群れで生活し,主食のカモジグサなどの草を求めて遊牧する。12月ころの交尾期には,雄は5~15頭の雌を従えてハレムを形成する。雌は春にふつう2子を生む。妊娠期間139~152日,約20ヵ月で性成熟する。寿命は10~12年。
執筆者:今泉 忠明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
哺乳(ほにゅう)綱偶蹄(ぐうてい)目ウシ科の動物。かつて氷河時代にはフランスやイギリスにもいたが、現在は中央アジアに分布し、寒冷な草原に生息する。肩高60~80センチメートル、体重23~40キログラム。角(つの)は雄だけにあり、長さ25~30センチメートル。体色は季節で異なり、夏は上面が黄褐色、冬は白色を帯びる。顔や腹面は白色。大きな鼻孔は乾燥した空気に湿気を与え、冷たい空気を暖める働きがあるという。夏は30~40頭の群れでいるが、ときとしてその群れが集まって1000頭ほどになる。群れに順位はなく、リーダーもいないが、12月には1頭の雄が5~15頭の雌を従え、リーダーとなる。この時期に若い雄は別の大きな群れをつくる。交尾期が終わると、ふたたび大きな群れを形成する。食物はおもに草である。走るのが速く、時速70~80キロメートルに達する。敵に追われると、ときおり高く跳び、敵を見る。妊娠期間は約5か月で、1産1~3子、普通2子を産む。
[今泉忠明]
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