改訂新版 世界大百科事典 「サシバエ」の意味・わかりやすい解説
サシバエ (刺蠅)
双翅目イエバエ科サシバエ亜科Stomoxyinaeに属する昆虫の総称,またはそのうちの1種を指す。和名サシバエStomoxys calcitransは,牛馬など温血動物を刺して吸血することから,英名のstable flyは,家畜小屋のまわりに多いことに由来する。イエバエ科のハエのうち,口器が硬化して,吸血するのに適応したグループで,世界に10属48種,日本からは3属5種が知られている。とくにアンテロープ(レイヨウ)などの多いアフリカ大陸に種数が多い。このうち,前述のサシバエは,世界に広く分布しもっともふつうの種で,幼虫は野外の牧場の牛糞などよりも,畜舎の堆肥など,敷きわらの混じった糞からより多く発生する。発生のピークは秋で,本州中部では9月下旬から10月にかけて最高に達する。雌成虫の産卵数は,25~50個,卵は片側に溝のある特有な形態をしている。幼虫期間は1~4週,成虫の寿命は飼育条件下で約20日,野性のものではより短い。カと異なり,雌雄とも吸血する。吸血活動は日中に盛んで,夜は付近の草や畜舎の壁などに静止している。ノサシバエHaematobia irritansは,北海道,東北地方に多く,とくに牛を好んで吸血する。サシバエと異なり,牧野の牛糞で発生する個体数が非常に多い。
執筆者:篠永 哲
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報