サソリ(読み)さそり(英語表記)scorpion

翻訳|scorpion

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サソリ」の意味・わかりやすい解説

サソリ
さそり / 蠍


scorpion

節足動物門クモ形綱サソリ目Scorpionesに属する動物の総称。古くから毒蛇と並ぶ有毒動物として知られ、「蛇蠍(だかつ)のごとく嫌われる」のたとえもある。全種類が致死的毒性をもつわけではないが、誇張された毒力と異様な形態が、人々に必要以上の恐怖感を与えている。そのため国内でサソリが発見されると社会問題化しやすいが、正確に種を同定し、毒性を確認したうえで対処すべきである。世界各地に広く分布し、熱帯、亜熱帯および一部の温帯地方にも生息する。ヨーロッパでは地中海沿岸諸国、ドイツ南部、フランス南部に生息し、アメリカではアリゾナ州をはじめ合衆国の約4分の3の地域に生息し、西海岸からカナダ南西部にまで分布する。南半球にはほぼ全域に分布するが、ニュージーランドアルゼンチンのパタゴニア地方および南極大陸には生息しない。アジアでは熱帯、亜熱帯地域のほか中国大陸、台湾、朝鮮半島に分布し、日本では沖縄の宮古(みやこ)島、八重山(やえやま)列島および小笠原(おがさわら)諸島に生息する。日本本土での生息例はなく、江戸時代から珍しい渡来動物として『和漢三才図会(ずえ)』(1712)、『栗氏虫譜(りっしちゅうふ)』(1811)、そのほかに写生図入りで記載されている。現在でも港湾地区での発見例があり、東南アジア産の弱毒種チャグロサソリや中・南アメリカ産の強毒種セントルロイデスが貨物から発見されたりする。1955年(昭和30)神戸市須磨浦(すまうら)海岸で石の下から2匹のキョクトウサソリButhus martensiiが採集されたが、土着のものとは考えられていない。

 サソリの化石は数百個発見されているが、古生代シルル紀、石炭紀、新生代第三紀の漸新世のものである。最古の種は水中生活を思わせる特徴を示すが、石炭紀以降の化石は形態上現存種と大差がなく、サソリが「生きた化石」といわれるのはそのためである。現在7科約650種が知られているが、キョクトウサソリ科Buthidaeが最大で30属300種以上、世界に広く分布し、ほかの6科とは多くの点で異なった特徴をもつ。日本の生息種は同科のマダラサソリIsometrus europaeusとコガネサソリ科ScorpionidaeのヤエヤマサソリLiocheles australasiaeの2種で弱毒性。世界最大種は熱帯アフリカ産のダイオウサソリPandinus imperatorで体長15~25センチメートル、石炭紀の化石では36センチメートルのものもある。最小種はイエメン南部アデン産のミクロブツス・プシルスMicrobuthus pusillusでわずか13ミリメートル。普通は5~10センチメートルのものが多い。

[服部畦作]

形態

前体、後体と2部に分かれ、後体は中体と終体とからなる。前体は頭と胴が一体化して堅い背甲板で覆われる。背甲板中央には2個の中眼と両側部に2~5対の側眼がある。体前端には3節の小さい鋏角(きょうかく)があり、その側方には6節からなるカニのはさみ状の強大な触肢(しょくし)がある。歩脚は4対で第1脚が最短。各歩脚は7節からなる。前体下面に生殖口蓋(こうがい)があり、第4脚基節に接してサソリ目特有の櫛状(しつじょう)板がある。感覚器官と考えられるが、機能の詳細は不明。中体は幅広く7節からなる。呼吸は中体側部の4対の書肺(肺書)で行い、雌雄生殖器は中腸付近にあって、雌では受精嚢(のう)、雄では貯精嚢をもつ。終体は細まって5節の尾のようになっている。末端に毒嚢と毒針をもつ尾節がある。強大な触肢で獲物を挟み、尾部を振り上げて毒針で毒液を注入し刺し殺す。

[服部畦作]

生態

夜行性。日中は石の下、樹皮下に潜む。自ら穴を掘って隠れる種もある。砂漠にもすみ、森林内にすむ種もある。4~6月ごろ家屋内に侵入する地方もある。摂食行動は消極的で、近づいた獲物を捕食する。食物には、クモ類、昆虫類、多足類、ミミズ類、ほかのサソリが主として選ばれる。サソリの行動で有名なのは婚姻ダンスである。雌雄が向かい合って互いの触肢をつかみ、前後左右に移動する。尾部を絡み合わせる種もある。雄はやがて精包を地上に置いてそこに雌を誘導し、雌は生殖口より精包を受け取って受精を終える。卵胎生で十数匹から100匹以上の幼虫を産む。幼虫は親の背面に群れをなして取りついており、1~2年で成熟し、3~4年は生き続ける。サソリの行動についてはファーブルの『昆虫記』に詳しい記述がある。

[服部畦作]

サソリ毒には全身症状をおこす神経毒と局所毒があり、中・南アメリカ、アフリカ、中近東には神経毒をもつ危険な種が生息するので、注意を要する。毒成分のアミノ酸組成はどの種も似ており、60個前後のアミノ酸のうちシスチンが多く、ヒスチジンなどが少ない。コブラなどヘビの神経毒に似ている。東南アジア、日本産のサソリは局所毒を有し、弱毒性。局所毒の化学構造はまだ解明されていない。サソリの毒性はサソリの種によって異なるほか、同種のサソリでも生息地によって相違がある。また、被害動物の種、齢によって差があり、ネコ、ニワトリ、カエルは非感受性である。若齢個体ほど毒性発現は強い。人体被害例でも幼・小児の致命率は成人の4~8倍に達する。刺傷後致死まで数分から30時間、平均2~20時間という。防除には市販の殺虫剤で十分な効果を期待できる。

[服部畦作]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例