日本大百科全書(ニッポニカ) 「サウル」の意味・わかりやすい解説
サウル(古代イスラエルの初代の王)
さうる
Šā'ûl ヘブライ語
Saul 英語
古代イスラエルの初代の王(在位前1020~前1010)。イスラエル諸部族の一つベニヤミンの出身。サウル以前のイスラエルは、政治的統一を欠いた部族連合であり、対外的脅威が起こったときにだけカリスマ的な軍事指導者がこれを統率した。長身の美男子で勇気に富むサウルは、イスラエルの民が王を待望したときに、預言者サムエルによってみいだされ、「王万歳」という民の歓呼を得て王となった。サウルの軍は、ペリシテ人に比べ武器のうえで劣勢であったため、勇気が重んじられた。ダビデもそういう部下の一人である。ダビデの冷静・沈着な行動に比べ、サウルには直情的な性格があり、人気をねたんで執拗(しつよう)にダビデ殺害を図る。のちペリシテ人との戦いに敗れて、ギルボア山中で自害する。このとき、ダビデはその死を悼んだ(「サムエル記」上・9~31章、下・1章)。
[市川 裕]
サウル(アルフィエーリの悲劇)
さうる
šaul
イタリアの劇作家ビットリオ・アルフィエーリの代表的五幕悲劇。1782年作。『旧約聖書』の「サムエル記上」から材を得た詩劇。王サウルから退けられたダビデは、ギルボアのイスラエル軍の陣地にやってくる。サウルの息子、親友ヨナタンと会い、サウルが悪霊に取り憑(つ)かれ、アブネルの言いなりになっている事実を告げられる。ダビデはサウルとも会って和解を図るが、アブネルによる中傷やサウルの狂気に妨げられて果たせない。ダビデはサウルのもとでペリシテの軍と戦おうとするが、彼を弁護する祭司を殺され、また彼の戦略を否定されて、逃亡を余儀なくされる。サウルは悔恨のうちに狂い、攻め入る敵軍を前に自刃する。
[佐藤三夫]