サラスバティー(英語表記)Sarasvatī

改訂新版 世界大百科事典 「サラスバティー」の意味・わかりやすい解説

サラスバティー
Sarasvatī

古代インド神話神格の一つ。かつてインダス川東方を流れていたサラスバティー川(現在のものとは別と考えられる)が女神として神格化されたもので,インド最古の文献である《リグ・ベーダ》においてすでに,河川神の中で最も有力な地位を占めている。《リグ・ベーダ》では,穢れをはらい,さまざまの富をもたらす神として崇拝されるが,これは大地肥沃をもたらす河川の力と水の浄化能力とが重視されたものであろう。のちにブラーフマナ神話にいたると,同じく重要な神格である言葉の女神バーチュVācと同一視され,学問・芸術をつかさどる女神となった。仏教にも天部の一つとして取り入れられ,弁才天として崇拝されている。
弁才天
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サラスバティー」の意味・わかりやすい解説

サラスバティー
さらすばてぃー
Sarasvatī

古代インドの女神。元来「水を湛(たた)える」を意味する女性名詞にかかる形容詞であるが、固有名詞となって西北インドの特定の河川をさすようになった。インド最古の聖典『リグ・ベーダ』では、言及される25の河川のなかでも最高の河川として神格化されており、天上に淵源(えんげん)し、山より出(い)でて海に注ぐ大河としてうたわれている。また、しばしば現在のパティアラの砂中に没する小河サルスーティと比定され、ヒンドゥー教神話においては、聖仙ウタティヤの呪(のろ)いによってこの小河に化したと語られている。古くから河川の女神として、豊穣(ほうじょう)、生産、富、浄化の力をもつとされたが、後世にはことばの女神バーチュと同一視されて学問との結び付きが強くなり、文芸守護の女神となった。仏教では弁才天として表現されている。ヒンドゥー教ではブラフマー梵天(ぼんてん))の妻になるなど、多数の神話がこの女神に語られている。

[原 實]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サラスバティー」の意味・わかりやすい解説

サラスバティー
Sarasvatī

インド最古の文献『リグ・ベーダ』以来認められる神話上の女神。その名は savas (湖) を有する女神の意。河川や湖の神格で,河川信仰を伝える。この女神の用具言語であったと考えられ,のちには言語と同一視された。さらに後代には,学問,技芸の神,雄弁知恵の保護神として高い地位を与えられた。仏教にも採用され弁財天と呼ばれ,通常二臂あるいは八臂の女神で琵琶を弾じていると考えられている。日本でも,弁天のほこらが多く水辺にあるのはもともとの河川信仰を伝えている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「サラスバティー」の意味・わかりやすい解説

サラスバティー

インド神話の河川神。《リグ・ベーダ》では福楽・食物・子孫を恵む女神とされ,ブラーフマナ神話では言葉の女神バーチュと同一視され,雄弁,学問,技芸などの神となった。仏教にとり入れられて弁財天となる。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android