梵天(読み)ぼんてん

精選版 日本国語大辞典 「梵天」の意味・読み・例文・類語

ぼん‐てん【梵天】

[1] (Brahman の訳。古くは「ぼんでん」とも)
[一] インドの古代宗教で、世界の創造主として尊崇された神。古代インド思想で宇宙の根源とされるブラフマンを神格化したもの。仏教にはいって色界(しきかい)初禅天(しょぜんてん)に住する仏教護持の神となった。十二天、八方天の一つで、帝釈天と対をなすことが多い。大梵天王。梵天王。
[二] (「梵土」「天竺」の意から) インドの称。
※正法眼蔵(1231‐53)陀羅尼「人事の言は、〈略〉梵天より相伝せず、西天より相伝せず、仏祖より正伝せり」
[2] 〘名〙
① 仏語。色界の初禅天の総称。大梵天・梵輔天・梵衆天の三天があり、大梵天は初禅天の王、梵輔天は家臣、梵衆天は一般庶民に当たる。
※霊異記(810‐824)中「母、子を慈び、因りて自から梵天に生まる」 〔旧唐書‐天竺国伝〕
② 修験道(しゅげんどう)で祈祷に用いる幣束(へいそく)
※歌謡・落葉集(1704)七・三瀬川「此は卯月といふしでの、ぼんでんすごく立てならに」
③ 棒の先から御幣を垂れ下げたもの。ほて(占有標)の意が梵天の語と結びついたもので、神の依代(よりしろ)を示す。秋田県その他で、杉丸太に火消のまとい状のものを土地の神社にかつぎ込む梵天奉納祭がある。《季・新年》
④ 幣束を棒の先に多く刺したもの。江戸市中で、端午(たんご)の節供に町々の若者が多く作り、山伏を大勢雇いほら貝を吹かせ、家々に配って魔除けとして軒にささせたもの。
⑤ 江戸時代、風神、悪魔、虫などを追い払うための一種の幣束。飛脚などの往来や参宮に持参するほか、祭礼の際に振りながら持って歩いたり、村境に建てたりする。
※談義本・檠下雑談(1755)三「ぼんでんを以て、村中の者の首を撫」
⑥ 近世、劇場正面入り口の屋上に設けた櫓(やぐら)の左右に立てた二本の招(まねき)。梵天王をまつり、官許のしるしとしたもの。〔歌舞妓事始(1762)〕
⑦ 武具。指物の一種。
漁具の所在を示す標識。延縄(はえなわ)刺網漁業で用いる。一般に「ぼんでん」という。
⑨ 魚などをさした串を何本も突き立てる巻藁。幣束の形に似ているところからの名称。魚などの保存や乾燥、また場所をとらぬために広く利用された。弁慶
※雑俳・川柳評万句合‐天明五(1785)信五「ぼんてんに魚をさしとくけちな茶や」
御湯殿上日記‐天文四年(1535)六月二〇日「御いままいりよりほんてんまいる」
はたき。ちり払い。
※筆まかせ(1884‐92)〈正岡子規〉二「東京でいふハタキを松山にてはボンデン又はゴミハライといひしが」

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デジタル大辞泉 「梵天」の意味・読み・例文・類語

ぼん‐てん【梵天】

《〈梵〉Brahmanの訳。「ぼんでん」とも》

古代インドで世界の創造主、宇宙の根源とされたブラフマンを神格化したもの。仏教に取り入れられて仏法護持の神となった。色界の初禅天の王。十二天・八方天の一。ふつう本尊の左に侍立する形で表され、右の帝釈天たいしゃくてんと相対する。梵天王ぼんてんのう。大梵天王。
《「梵土天竺ぼんどてんじく」の略》インドの異称。

仏語。色界の初禅天。大梵天・梵輔天・梵衆天の三天からなり、特に大梵天をさす。淫欲を離れた清浄な天。
修験者が祈祷に用いる幣束へいそく
大形の御幣の一。長い竹や棒の先に、厚い和紙や白布を取り付けたもの。神の依代よりしろを示す。 新年》
棒の先に幣束を何本もさしたもの。魔除けとして軒などにさした。
延縄はえなわ刺し網などの所在を示す目印とする浮標のこと。
梵天瓜」の略。
耳かきの端についている、球状にした羽毛。細かな耳あかを払うためのもの。

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改訂新版 世界大百科事典 「梵天」の意味・わかりやすい解説

梵天 (ぼんてん)

ヒンドゥー教の主神の一つ。サンスクリットブラフマーBrahmāの音訳。ウパニシャッド思想の最高原理ブラフマン(梵,中性)を神格化したもので,ブラフマーはその男性主格形である。ブラフマーは造物主とされ,仏教の興起した頃には,世界の主宰神,創造神と認められるようになった。宇宙は〈ブラフマンの卵(梵卵)〉と呼ばれ,ブラフマーはその宇宙卵を二つに割って,天と地を創ったとされる。シバビシュヌの両神の信仰が高まるにつれ,ブラフマーの地位は下がり,両神のうちのいずれかの影響力のもとに宇宙を創造するにすぎないとみなされるようになった。ブラフマーは,ビシュヌのへそから生じた蓮(世界蓮)から出現したとされる。彼は人類の〈祖父〉(ピターマハPitāmaha)とか,〈自ら生じた者〉(スバヤンブーSvayaṃbhū)と呼ばれる。創造神であるから,自ら活動し人々を救済することはなく,シバやビシュヌのように,民衆の熱狂的な信仰の対象とはならなかった。そのインドにおける図像は,赤色で四面四臂を有し,羂索,祭匙,数珠,水瓶,ベーダなどを手に持ち,蓮花の座(世界蓮)または鵞鳥の上に座っている。鵞鳥は彼の乗物(バーハナ)とされている。また立像も存在する。
執筆者: 仏教には,釈迦への帰依者,仏法を守る神として帝釈天や四天王とともに早い時期から取り入れられた。さらに密教では十二天のうち天界の主神として一尊に数えられる。形像は,ガンダーラ地方で釈迦の脇侍像として帝釈天とともに表現される例では,払子(ほつす)を持つ,インドの服装の二臂像であるが,日本ではこの形式の像はない。現存する作例は,密教における像を除けば,いずれも中国風の服装をした二臂の立像で,帝釈天像と一対の像である。著名な作例には東大寺法華堂像(乾漆造),法隆寺像(木造),唐招提寺金堂像(木造)などがある。十二天の一尊として表現される密教系の梵天像は,これら非密教系の像と異なり,四面四臂の像である。空海が伝えたといわれる古い形式の像は3羽の鵞鳥の背に座る形像で,西大寺蔵《十二天画像》(12幅。国宝)の中の梵天像や教王護国寺(東寺)講堂の彫像はその例であるが,平安時代後期には鳥獣座を表現しない十二天の座像が描かれ,さらに鎌倉時代に《十二天屛風》の中に表される梵天は,鳥獣座を描かないばかりか,立像である。前者の例は京都国立博物館蔵《十二天画像》(教王護国寺旧蔵,12幅。国宝)の中の梵天像,後者の屛風の画像の例には,教王護国寺本,神護寺本,聖衆来迎寺本などの《十二天屛風》の中の梵天像がある。
執筆者:

梵天 (ぼんてん)

神の依代(よりしろ)となる布製の大きな作り物,御幣。その名称は仏教語に由来するとされる。修験者や行者は御幣,幣帛,幣束などを梵天とよぶこともある。〈ぼんてん〉は元来神の占有標であるホデと深いかかわりをもつ語と考えられ,祭礼では神霊の依代,神座とされている。東北地方には,大きな梵天を作って神社に奉納する梵天奉納祭が行われる。秋田県横手市の旭岡山(あさひおかやま)神社(2月17日),秋田市赤沼の太平山三吉神社(2月17日)などで,いずれも神社の前の石段にくると,各梵天は互いに争って石段をかけのぼり,最初に梵天を奉納した者にはその年幸運がさずかるといわれている。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「梵天」の意味・わかりやすい解説

梵天
ぼんてん

サンスクリット名ブラフマンbrahman。古代インドの紀元前6、5世紀ごろに姿を現した神。元来ブラフマンとは音声、言語に秘められる呪力(じゅりょく)で、これがしだいに万物をつくりだす創造力とされ、ついには宇宙万物の根本原理となった。これが神格化されて創造神たる梵天となったもので、しばしばブラフマーbrahmāと記される。ヒンドゥー神話では宇宙を維持するビシュヌ神、破壊をつかさどるシバ神とともに三大神とされるが、この二神と異なり、実際に神祠(しんし)に祀(まつ)られて崇拝されることはまれである。妃は知慧(ちえ)と学問、ないし雄弁と音楽の神たるサラスバティー女神(弁才天)である。仏教では帝釈天(たいしゃくてん)とともに護法の神とされ、釈尊に説法を勧めたりする。また密教では十二天の一つとされる。日本における作例では法隆寺金堂の塑像、東大寺三月堂の乾漆像、唐招提(とうしょうだい)寺の木像は名品として知られる。密教像では東(とう)寺(教王護国寺)講堂の木像、京都国立博物館蔵「十二天画像」(東寺旧蔵)中の梵天像などがある。

[奈良康明]

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百科事典マイペディア 「梵天」の意味・わかりやすい解説

梵天【ぼんてん】

神の依代(よりしろ)となる布製の大きな作り物,御幣。秋田県横手市旭岡山神社で毎年2月17日に行われる梵天奉納祭に見られる幣束(へいそく)の一種。長さ2mほどの杉の丸太に,布や五色の紙で包んだ頭をつけ丸い鉢巻を巻いたもの。最初に奉納したものに幸運が授かるといわれ,数十本の梵天をふりかざした若者たちが先を争って社殿に駆け上がる。ほかに秋田市三吉神社,仙北郡八坂神社などでも行われる。
→関連項目秋田[県]横手[市]

梵天【ぼんてん】

仏教を守護する善神の一人。元来ブラフマン(梵)の神格化で,仏教に入り色界の初禅天をつかさどった。これに梵衆天・梵輔天・大梵天の3神があり,その総称,または大梵天のみをさす。インドラとともに護法神として重要。密教では十二天の一つとして上方を守護する。
→関連項目ビシュヌ摩利支天

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「梵天」の意味・わかりやすい解説

梵天
ぼんてん

仏教の守護神。色界の初禅天にあり,梵衆天,梵輔天,大梵天の三つがあるが,普通は大梵天をいう。もとはインド神話のブラフマーで,インドラ(帝釈天)などとともに仏教守護神として取り入れられた。密教では十二天の一つ。法隆寺金堂の塑像,東大寺法華堂(三月堂)の乾漆像など天平時代の名作があり,密教像では四面四臂に表され作品も多い。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「梵天」の解説

梵天 ぼんてん

仏教の守護神。
もとは古代インドのバラモン教,ヒンズー教の主神ブラフマンで,シバ神,ビシュヌ神に準ずるとされる。仏教では帝釈(たいしゃく)天と対になって釈迦(しゃか)に随侍し,須弥壇(しゅみだん)に安置される。密教では十二天の一つとされる。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「梵天」の解説

梵天 (ボデン・ボンテン)

植物。真桑瓜の品種。ボンデンウリの別称

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世界大百科事典(旧版)内の梵天の言及

【インド神話】より

…これがいわゆるヒンドゥー教の神話である。ヒンドゥー教の主神はブラフマー(梵天)とシバ(大自在天)とビシュヌ(毘瑟笯,毘紐)である。ブラフマーはウパニシャッド哲学の最高原理ブラフマン(中性原理)を神格化したもので,宇宙創造神,万物の祖父(ピターマハ)として尊敬されるが,他の2神のように幅広い信仰の対象となることはなかった。…

【十二天】より

…12の天部は四方(東西南北)と四維(南東,南西,北西,北東)の8方と上方,下方の10方位に配置される十尊と日天(につてん),月天(がつてん)である。すなわち,帝釈天(たいしやくてん)(東),火天(かてん)(南東),閻魔天(えんまてん)(南),羅刹天(らせつてん)(南西),水天(すいてん)(西,バルナ),風天(ふうてん)(北西),毘沙門天(びしやもんてん)(北),伊舎那天(いしやなてん)(北東),梵天(ぼんてん)(上),地天(ちてん)(下),日天,月天となる。十二天像は画像で表現される。…

【ハス(蓮)】より

…このことは,ハスの象徴と生類を生み出す母神の力との結びつきが,インド文化の基層で連続していたことを示すものとされる。《マハーバーラタ》や《バーガバタ・プラーナ》にみられる創造神話によれば,ビシュヌ神は,太初の海に浮かぶシェーシャ竜を寝台として眠り,ビシュヌ神のへそが伸び蓮華を生じ,そこに梵天(ぼんてん)が生まれ世界を創造したとする。この神話は,〈産み出すもの〉の象徴としてのハスを,男性神の創造神話に組みこんだ例と考えられる。…

【ヒンドゥー教】より

…今日のヒンドゥー教で,インド全域にわたって崇拝されている神はビシュヌシバとである。ヒンドゥー教はこのほかにブラフマー神(梵天)を加えた三つの神格を中軸として発達してきており,ブラフマー神は宇宙の創造を,ビシュヌ神は宇宙の維持を,シバ神は宇宙の破壊を任務としていると信じられている。しかしブラフマー神は中世以降勢力を得ることができず,他の2神を中心に展開してきている。…

【プシュカラ[湖]】より

…ポーカルPokharとも呼ばれる。プシュカラは〈青蓮華〉のことで,ヒンドゥー教徒はこの地を創造神ブラフマー(梵天)の聖地としている。ブラフマー神はかつて蓮華を手にしてこの地を訪れ,そこで神々を破滅させようと苦行をしていた悪魔バジュラナーバを発見した。…

【梵卵】より

…サンスクリットの〈ブラフマーンダbrahmāṇḍa〉の訳。〈ブラフマー神(梵天)の卵〉の意味で,ヒンドゥー教において,宇宙開闢(かいびやく)の根源である最高存在とされるものの一つ。インドにおいて,宇宙創造に関しては,最古の文献である《リグ・ベーダ》以来さまざまな思想・学説が展開されているが,梵卵からの宇宙創造の説もその一つで,ヒンドゥー教の聖典である各種のプラーナ(〈古譚〉〈古伝話〉の意),とくに《ブラフマーンダ・プラーナBrahmāṇḍa‐purāṇa》において詳細に論じられている。…

※「梵天」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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