デジタル大辞泉 「梵天」の意味・読み・例文・類語
ぼん‐てん【梵天】
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1 仏語。色界の初禅天。大梵天・梵輔天・梵衆天の三天からなり、特に大梵天をさす。淫欲を離れた清浄な天。
2 修験者が祈祷に用いる
3 大形の御幣の一。長い竹や棒の先に、厚い和紙や白布を取り付けたもの。神の
4 棒の先に幣束を何本もさしたもの。魔除けとして軒などにさした。
5
6 「梵天瓜」の略。
7 耳かきの端についている、球状にした羽毛。細かな耳あかを払うためのもの。凡天。
ヒンドゥー教の主神の一つ。サンスクリットのブラフマーBrahmāの音訳。ウパニシャッド思想の最高原理ブラフマン(梵,中性)を神格化したもので,ブラフマーはその男性主格形である。ブラフマーは造物主とされ,仏教の興起した頃には,世界の主宰神,創造神と認められるようになった。宇宙は〈ブラフマンの卵(梵卵)〉と呼ばれ,ブラフマーはその宇宙卵を二つに割って,天と地を創ったとされる。シバとビシュヌの両神の信仰が高まるにつれ,ブラフマーの地位は下がり,両神のうちのいずれかの影響力のもとに宇宙を創造するにすぎないとみなされるようになった。ブラフマーは,ビシュヌのへそから生じた蓮(世界蓮)から出現したとされる。彼は人類の〈祖父〉(ピターマハPitāmaha)とか,〈自ら生じた者〉(スバヤンブーSvayaṃbhū)と呼ばれる。創造神であるから,自ら活動し人々を救済することはなく,シバやビシュヌのように,民衆の熱狂的な信仰の対象とはならなかった。そのインドにおける図像は,赤色で四面四臂を有し,羂索,祭匙,数珠,水瓶,ベーダなどを手に持ち,蓮花の座(世界蓮)または鵞鳥の上に座っている。鵞鳥は彼の乗物(バーハナ)とされている。また立像も存在する。
執筆者:上村 勝彦 仏教には,釈迦への帰依者,仏法を守る神として帝釈天や四天王とともに早い時期から取り入れられた。さらに密教では十二天のうち天界の主神として一尊に数えられる。形像は,ガンダーラ地方で釈迦の脇侍像として帝釈天とともに表現される例では,払子(ほつす)を持つ,インドの服装の二臂像であるが,日本ではこの形式の像はない。現存する作例は,密教における像を除けば,いずれも中国風の服装をした二臂の立像で,帝釈天像と一対の像である。著名な作例には東大寺法華堂像(乾漆造),法隆寺像(木造),唐招提寺金堂像(木造)などがある。十二天の一尊として表現される密教系の梵天像は,これら非密教系の像と異なり,四面四臂の像である。空海が伝えたといわれる古い形式の像は3羽の鵞鳥の背に座る形像で,西大寺蔵《十二天画像》(12幅。国宝)の中の梵天像や教王護国寺(東寺)講堂の彫像はその例であるが,平安時代後期には鳥獣座を表現しない十二天の座像が描かれ,さらに鎌倉時代に《十二天屛風》の中に表される梵天は,鳥獣座を描かないばかりか,立像である。前者の例は京都国立博物館蔵《十二天画像》(教王護国寺旧蔵,12幅。国宝)の中の梵天像,後者の屛風の画像の例には,教王護国寺本,神護寺本,聖衆来迎寺本などの《十二天屛風》の中の梵天像がある。
執筆者:関口 正之
神の依代(よりしろ)となる布製の大きな作り物,御幣。その名称は仏教語に由来するとされる。修験者や行者は御幣,幣帛,幣束などを梵天とよぶこともある。〈ぼんてん〉は元来神の占有標であるホデと深いかかわりをもつ語と考えられ,祭礼では神霊の依代,神座とされている。東北地方には,大きな梵天を作って神社に奉納する梵天奉納祭が行われる。秋田県横手市の旭岡山(あさひおかやま)神社(2月17日),秋田市赤沼の太平山三吉神社(2月17日)などで,いずれも神社の前の石段にくると,各梵天は互いに争って石段をかけのぼり,最初に梵天を奉納した者にはその年幸運がさずかるといわれている。
執筆者:宇野 正人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
サンスクリット名ブラフマンbrahman。古代インドの紀元前6、5世紀ごろに姿を現した神。元来ブラフマンとは音声、言語に秘められる呪力(じゅりょく)で、これがしだいに万物をつくりだす創造力とされ、ついには宇宙万物の根本原理となった。これが神格化されて創造神たる梵天となったもので、しばしばブラフマーbrahmāと記される。ヒンドゥー神話では宇宙を維持するビシュヌ神、破壊をつかさどるシバ神とともに三大神とされるが、この二神と異なり、実際に神祠(しんし)に祀(まつ)られて崇拝されることはまれである。妃は知慧(ちえ)と学問、ないし雄弁と音楽の神たるサラスバティー女神(弁才天)である。仏教では帝釈天(たいしゃくてん)とともに護法の神とされ、釈尊に説法を勧めたりする。また密教では十二天の一つとされる。日本における作例では法隆寺金堂の塑像、東大寺三月堂の乾漆像、唐招提(とうしょうだい)寺の木像は名品として知られる。密教像では東(とう)寺(教王護国寺)講堂の木像、京都国立博物館蔵「十二天画像」(東寺旧蔵)中の梵天像などがある。
[奈良康明]
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出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
…これがいわゆるヒンドゥー教の神話である。ヒンドゥー教の主神はブラフマー(梵天)とシバ(大自在天)とビシュヌ(毘瑟笯,毘紐)である。ブラフマーはウパニシャッド哲学の最高原理ブラフマン(中性原理)を神格化したもので,宇宙創造神,万物の祖父(ピターマハ)として尊敬されるが,他の2神のように幅広い信仰の対象となることはなかった。…
…12の天部は四方(東西南北)と四維(南東,南西,北西,北東)の8方と上方,下方の10方位に配置される十尊と日天(につてん),月天(がつてん)である。すなわち,帝釈天(たいしやくてん)(東),火天(かてん)(南東),閻魔天(えんまてん)(南),羅刹天(らせつてん)(南西),水天(すいてん)(西,バルナ),風天(ふうてん)(北西),毘沙門天(びしやもんてん)(北),伊舎那天(いしやなてん)(北東),梵天(ぼんてん)(上),地天(ちてん)(下),日天,月天となる。十二天像は画像で表現される。…
…このことは,ハスの象徴と生類を生み出す母神の力との結びつきが,インド文化の基層で連続していたことを示すものとされる。《マハーバーラタ》や《バーガバタ・プラーナ》にみられる創造神話によれば,ビシュヌ神は,太初の海に浮かぶシェーシャ竜を寝台として眠り,ビシュヌ神のへそが伸び蓮華を生じ,そこに梵天(ぼんてん)が生まれ世界を創造したとする。この神話は,〈産み出すもの〉の象徴としてのハスを,男性神の創造神話に組みこんだ例と考えられる。…
…今日のヒンドゥー教で,インド全域にわたって崇拝されている神はビシュヌとシバとである。ヒンドゥー教はこのほかにブラフマー神(梵天)を加えた三つの神格を中軸として発達してきており,ブラフマー神は宇宙の創造を,ビシュヌ神は宇宙の維持を,シバ神は宇宙の破壊を任務としていると信じられている。しかしブラフマー神は中世以降勢力を得ることができず,他の2神を中心に展開してきている。…
…ポーカルPokharとも呼ばれる。プシュカラは〈青蓮華〉のことで,ヒンドゥー教徒はこの地を創造神ブラフマー(梵天)の聖地としている。ブラフマー神はかつて蓮華を手にしてこの地を訪れ,そこで神々を破滅させようと苦行をしていた悪魔バジュラナーバを発見した。…
…サンスクリットの〈ブラフマーンダbrahmāṇḍa〉の訳。〈ブラフマー神(梵天)の卵〉の意味で,ヒンドゥー教において,宇宙開闢(かいびやく)の根源である最高存在とされるものの一つ。インドにおいて,宇宙創造に関しては,最古の文献である《リグ・ベーダ》以来さまざまな思想・学説が展開されているが,梵卵からの宇宙創造の説もその一つで,ヒンドゥー教の聖典である各種のプラーナ(〈古譚〉〈古伝話〉の意),とくに《ブラフマーンダ・プラーナBrahmāṇḍa‐purāṇa》において詳細に論じられている。…
※「梵天」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」