改訂新版 世界大百科事典 「サルウィアヌス」の意味・わかりやすい解説
サルウィアヌス
Salvianus
生没年:400ころ-470から480
ガリア出身のキリスト教著作家。おそらくトリールの生れで,418年フランク族の攻撃を経験した。425年ころ妻の同意を得て禁欲生活を決意し,レランス修道院に入る。439年ころマルセイユの司祭となり,死ぬまでその任にあった。著作としては《教会へ》4巻(435ころ),《神の支配について》8巻(440ころ。未完),9通の書簡が現存している。《教会へ》は仮名で刊行され,教会成員の強欲さを論じ,キリスト教徒(特に聖職者)に対し貧者救済のためすべての私有財産を教会に遺贈すべきだと説いており,《貪欲に対して》という別題も伝えられている。《神の支配について》は,当時覆うべくもないローマの衰退,ゲルマンの優勢を前に,キリスト教徒の間に生じていた動揺に対して著した弁神論である。精神的盲目ゆえに異端・異教を奉じているとはいえ道徳性では勝るゲルマン人と,キリスト教徒とは名ばかりでぜいたくと快楽ばかり求めるローマ人,昔日のローマの徳と現在の堕落とを対比し,ゲルマン侵入こそローマのかかる堕落に神が与えた当然の罰,神の正義の証左にほかならないと断じる。その際,ローマの支配の行政的・社会的・経済的不公正が徹底的に糾弾され,著者の同情を得るのは社会の最底辺で苦しむ人々のみである。そこには著者の厳しい禁欲主義の反映や執筆目的が生む誇張もあろうが,同書は古代末期の社会に関するきわめて貴重な史料である。
執筆者:後藤 篤子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報