遺言によって財産を他人に無償で与えること。贈与が贈与者の生前行為であり,しかも受贈者との契約であるのに対し,遺贈は遺言者の一方的意思表示によって,遺言者の死後に効力を生ずる単独行為である点で両者は異なる。また,贈与者の死亡によって効力を生ずる死因贈与も遺贈に近似するが,それは契約である点で遺贈とは異なる。遺贈には,包括名義で行われる包括遺贈と特定名義で行われる特定遺贈とがある(民法964条)。また,遺贈には負担をつけることもでき,これを負担付遺贈という(1002,1003,1027条)。しかし,いずれも遺留分に関する規定に違反することはできない(964条但書)。
遺贈を受ける者として遺言中に指定されている者を受遺者,遺言に従って遺贈の履行を行うべき者を遺贈義務者という。受遺者は,相続人を含めて権利能力者であればだれでもよく,会社などの法人でもよい。ただし,受遺者となるためには,遺言が効力を生ずるときに生存ないし存在していなければならない(994条1項)。しかし,胎児は遺贈についてもすでに生まれたものとみなされるし(965条による866条の準用),設立中の法人も,胎児と同様,受遺者たりうるものと解されている。遺贈義務者は相続人である。遺言執行者があるときは,その者が遺贈義務者となる(1013,1015条)。また,相続人が数人あるときは,各人は相続分に応じて,遺贈義務を配分負担するものと解されている。
遺贈は,受遺者が遺言者より先に死亡したとき(994条1項),停止条件付遺贈において条件成就前に受遺者が死亡したとき(994条2項),および遺贈の目的たる権利が遺言者の死亡の時点で相続財産に属していなかったとき(996条本文,なお但書参照)は,無効である。また,遺贈には放棄が認められていて,受遺者は,遺言者の死亡後,いつでも遺贈の放棄をすることができる(986条)。ところで,受遺者が長期間,放棄も承認もせずにいると,遺贈義務者の地位は不安定なものとなる。そこで,遺贈義務者その他の利害関係人は,相当の期間内に遺贈の承認または放棄をすべき旨を受遺者に催告することができ,その意思表示をしないときは,受遺者は遺贈を承認したものとみなされる(987条)。遺贈が,上記のような理由で無効であり,または放棄されたときは,遺言に別段の定めのないかぎり,受遺者が受けるべきであった権利は遺言者の相続人に帰属する(995条)。
たとえば〈遺産の1/3をAに与える〉というように,遺産の全部または一定の割合で示された部分を与える遺贈をいう。包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するから(990条),遺産の全部または一部は,被相続人の一身に専属するものを除いて,包括的かつ当然に受遺者に帰属する(物権的効力)。したがって,ほかに相続人があるときは,遺言で定められた割合の相続分を有する相続人が1人増えたと考えればよい。たとえば,相続人としてA,Bの2人があり(法定相続分を平等とする),Cに2割の包括遺贈があった場合に,Cの受遺分を控除した残りの8割がA,Bに平等に分けられ,遺産は,A,Bに各4割,Cに2割の割合で分割されることになる。ちなみに,包括受遺者は,遺言者の債務も包括的に承継する。
特定物,たとえば〈どこそこの土地をAに与える〉とか,特定債権,たとえば〈○○銀行の××名義の普通預金をBに与える〉とか,不特定物,たとえば〈100万円とか米10俵とかをCに与える〉というように,遺産中の特定の財産を目的とする遺贈をいう。前者のように特定の物や権利を目的とするものを〈特定物遺贈〉,後者のように金銭や種類物を目的とするものを〈不特定物遺贈〉という。特定物遺贈の場合には,遺言者の死亡と同時に,目的物上の権利は受遺者に移る(物権的効力)と解されている。そこで,特定物遺贈の場合には,受遺者は,遺贈義務者に対して,その目的物の引渡しや登記を請求することができる。しかし,不特定物遺贈の場合には,100万円とか米10俵とかを与えるといっても,それだけではどの100万円なのか,どの米10俵なのか特定していないから,遺贈が効力を生じても,受遺者はただそれだけの遺贈の履行を請求できる権利を取得するにとどまるものと解されている(債権的効力)。この場合には,その履行によってはじめて権利が受遺者に移転することになる。
民法は,特定受遺者の権利義務について,一連の規定を設けている(991~1001条)。それらによれば,たとえば,遺贈の目的である特定物は遺言者の死亡時に相続財産に属していなければならない(996条)。だから,遺贈の目的物が,遺言者の死亡の時において,第三者の権利の目的となっている場合には,受遺者は,原則として遺贈義務者に対して,その権利を消滅させるべき旨を請求することはできない(1000条)。しかし,その目的物が遺言者の死亡時に相続財産中に存在しなくても,その代替物が存在する場合には,その代替物を遺贈の目的にしたと推定される(999,1001条)。たとえば,遺贈家屋は焼失したが火災保険請求権が存在する場合には,火災保険請求権が遺贈されたものとみなされる。また,金銭債権が遺贈の目的となっている場合には,その債権相当の金銭が相続財産中に現存しなくても,その債権金額を遺贈の目的にしたと推定される(1001条2項)。
たとえば〈どこそこの土地をAに与えるが,その代りにAはBに毎月10万円をBの学資として与えよ〉というように,受遺者に一定の法律上の義務を負担させる遺贈をいう。負担は,包括遺贈にも特定遺贈にもつけることができる。この一定の義務について,受遺者は,遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ,負担した義務を履行する責めを負うにとどまる(1002条1項)。したがって,負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認や遺留分の減殺によって減少したときは,受遺者はその減少の割合に応じて負担した義務を免れる(1003条)。しかし,負担は遺贈の付款であって条件ではないから,受遺者が負担義務を履行しない場合にも,その遺贈は無効とはならない。ただし,その場合には,遺言者の相続人は,受遺者に対して相当の期間を定めてその義務の履行を催告することができ,もしも受遺者がその期間内に履行しないときは,遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる(1027条)。また,負担付遺贈の受遺者(上例のA)が負担をきらって遺贈を放棄した場合には,その負担の利益を受けるべき者すなわち受益者(B)はAに代わって自ら受遺者となりうるものとされている(1002条2項)。
→遺言
執筆者:太田 武男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
遺言(いごん)により無償で他人(受遺者)に財産を与える行為(民法986条~1003条)をさす。遺言でなしうる法律行為のなかで、もっともしばしば行われ、かつ重要なものである。受遺者には相続人を含めてだれでもなれるし、会社その他の法人も受遺者になることができるが、受遺者となるためには、遺言の効力発生時に存在していなくてはならない。また、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合には、遺贈は失効して、遺言者がとくに意思表示をしない限り、受遺者の相続人が死者にかわって受遺者になることはできない(民法994条)。さらに、遺言者を殺そうとしたり、詐欺、強迫によって遺言させたり、遺言書を破棄した者は遺贈を受けることはできない(同法965条による891条の準用)。遺贈には、一般の財産処分と同じく、条件、期限をつけることができ、一定の負担を負わせること(たとえば、家を贈るかわりに毎年一定額を孤児院に寄付させるなど)ができるが、受遺者は遺贈の目的の価額を超えてその義務を履行する必要はない(同法1002条)。
[高橋康之・野澤正充 2019年7月19日]
遺贈には包括遺贈と特定遺贈の区別がある。包括遺贈とは、遺産の3分の1とか4分の1とかいうように遺産全体に対する分量的割合で行われる遺贈をいい、包括受遺者は相続人と同じ権利・義務をもつものとされている(民法990条)。したがって、遺贈の承認、放棄は相続人のそれと同じ取扱いを受けることになる。特定遺贈とは、特定の財産(ある銀行の預金とか、どこそこの家屋など)を与えることを内容とする遺贈である。この場合は、受遺者は遺言者の死後いつでも遺贈の放棄をすることができる(同法986条)。そのほか民法は、相続財産に属しない権利を遺贈の目的とした場合(同法996条・997条)、遺贈義務者(通常は相続人がなる)の引渡義務(同法998条)などに関して、かなり詳細な規定を置いている。なお、遺贈は相続人の遺留分(いりゅうぶん)を侵害することはできない。遺留分を侵害するような遺贈がされた場合、その遺贈は無効とはならないが、遺留分の権利者から遺留分侵害額に相当する金銭の支払いの請求を受けた場合には、その分だけもらえなくなる(同法1046条)。
[高橋康之・野澤正充 2019年7月19日]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新