さるは

精選版 日本国語大辞典 「さるは」の意味・読み・例文・類語

さる‐は

  1. [ 1 ] 〘 副詞 〙 ( 動詞「さり(然有)」の連体形係助詞「は」のついてできたもの )
    1. 一つの事態を受けて、それが本来もつ意味、そのような事態となった理由、などを解説するのに用いる。それというのも本来。そういうことは実は。本来。もともと。
      1. [初出の実例]「立ち寄れば梅の花がさ匂ふ野もなほわび人はここら濡れけり さるは、ふた葉にもと思ひ給つるものを」(出典:宇津保物語(970‐999頃)春日詣)
    2. 次に述べる事態が言うに及ばないことであるという気持を表わす。もちろん。当然。もともと。
      1. [初出の実例]「ひとつ家のやうなれば、望みてあづかれるなり。さるは、たよりごとに、ものもたえず得させたり」(出典:土左日記(935頃)承平五年二月一六日)
    3. 次に述べる事態が当然のことであるとことわった上で、さらにその事態と矛盾するような他の事態へ話を導くのに用いる。もちろん(…だが)。本来(…だが)。たしかに(…だが…だ)。
      1. [初出の実例]「『など、かくは急ぎ給ふ。花を見てこそ返給はめ』とて、土器(かはらけ)給ふとて、『いそぐとも花にまかせん匂ふ宮みつつや人のかへるともみん』仲頼『さるは』など云ひて、『花の香をたづねて来つるかひもなく匂ひにあかでわれやかへらん』」(出典:宇津保物語(970‐999頃)春日詣)
  2. [ 2 ] 〘 接続詞 〙 先行の事柄を受けて、それと矛盾する他の事柄を述べるのに用いる。もっとも。だが。だが実は。
    1. [初出の実例]「をさなき人かよひつつ聞けど、さるはなでふこともなかなり」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
    2. 「聞き伝ふるばかりの末には、哀れとやは思ふ。さるは、跡とふわざも絶えぬれば、いづれの人と名をだに知らず」(出典:徒然草(1331頃)三〇)

さるはの語誌

( 1 )この語の構成から、以下前文補足説明や結果・理由などを表わす[ 一 ]原義に近いものと思われる。[ 一 ]は、「さるものは」のような意義で、「言うまでもない」「もちろんだ」「本来そういうものだ」の意の「さるものにて」につながる。これは、現代語の「もとより」に対比される。さらに「もとより…だが…」「もちろん…だが…」のように転じたのが[ 一 ]である。これがさらに転じて[ 二 ]接続詞となったと考えられる。このような経路は「もと(元)も」を語源とする「もっとも」とよく似ている。
( 2 )「そういうことをいうの(について)は、(以下のことを一方において述べておかなければならない)」という譲歩的な補足、言い過ぎに対する弁解として、「もちろん、もとより」の意を生じ、また「そのくせ、とはいうものの」などの逆接と解せられる用法を生じたと説明することもできる。ただし、説によっては、多くの例について「さるは」の前後を逆接と見ないで、同じ傾向累加と見るものがある。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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