ハリウッドの内幕を描いたビリー・ワイルダー監督による1950年製作のアメリカ映画。《熱砂の秘密》(1943),《深夜の告白》(1944),《失われた週末》(1945)等々に次ぐワイルダーとチャールズ・ブラケット(1892-1969)の名コンビが,2年来あたためていたシナリオ《豆の缶詰》に〈タイム・ライフ〉の記者であり映画批評家だったD・M・マーシュマン・ジュニアのアイデアをとり入れ,3人で共同執筆(アカデミー原作ストーリー賞および脚本賞受賞)。サンセット大通りの豪華な邸宅に住み,かつての夫を召使い兼運転手としてかしずかせ,売れない脚本家を若い〈愛人〉にし,自分のアイデアである《サロメ》によってカムバックを夢みる凋落(ちようらく)したサイレント映画の大女優の自己陶酔と時代錯誤ぶりを,実際に落ちぶれていた往年の大女優グロリア・スワンソンに演じさせて仮借なく冷酷に描き,200本を超えるといわれるハリウッドを題材にした映画の中でももっとも大胆でスキャンダラスでしんらつな作品になった。公開に先立ってパラマウント撮影所の試写に招かれたMGMの社長L・B・メイヤーがワイルダーをハリウッドから追放せよと叫び,一時はパラマウントが公開を取りやめると噂されたほどであった。グロリア・スワンソンとともに,もう一人の凋落したサイレント映画の〈呪われた巨匠〉エリッヒ・フォン・シュトロハイムが執事の役で出演しており,シュトロハイム監督,スワンソン主演の未完の大作《ケリー女王》(1928)の断片が映写されたりする。また,《サムソンとデリラ》(1949)撮影中のセシル・B・デミル監督をはじめ,ハリウッドの名高い女流ゴシップライターのヘッダ・ホッパーやかつての喜劇スター,バスター・キートンなどが本人自身の役で顔を見せていることも話題になった。
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…シュトロハイム自身は自作の《愚かなる妻》で演じた貴族の将校がラストで泥沼の中に突き落とされる姿にみずからの運命を重ね合わせて見ていたといわれる。ビリー・ワイルダー監督の《サンセット大通り》(1950)では,忘れられた往年の大女優(グロリア・スワンソン)の執事兼運転手となっている落魄(らくはく)の映画監督という,まさに彼自身をほうふつさせる役を演じて,皮肉にも〈名演技〉と絶賛された。57年,パリ郊外でひっそりと72歳の生涯を閉じたが,その死の数日前にフランス政府からレジヨン・ドヌール勲章が贈られ,葬儀には数多くのフランスの映画人や熱狂的なファンが集まって,その死を悼んだ。…
…26年独立し,〈フィルム・ブッキング・オフィス・オブ・アメリカ(FBO)〉のJ.P.ケネディ(J.F.ケネディ大統領の父)の公私にわたる援助で〈グロリア・スワンソン・プロダクションズ〉を設立,ユナイテッド・アーチスツと契約して製作をはじめたが,エーリヒ・フォン・シュトロハイム監督が80万ドルを費やして中断せざるを得なかった《ケリー女王》(1928)で挫折(未公開に終わる)。トーキー時代に入るとともに人気が衰え,化粧品会社や衣服会社にかかわって事業に意欲をもやし,42年以後スクリーンから遠ざかるが,48年テレビの《グロリア・スワンソン・アワー》で健在ぶりを示し,ビリー・ワイルダー監督の《サンセット大通り》(1950)でカムバックし,彼女自身を思わせる往年の大スターの悲劇を堂々と演じてアカデミー主演女優賞にノミネートされた。70歳代になってもテレビ,舞台で活躍を続けたが,約70本の主演映画を残して84歳で死亡。…
※「サンセット大通り」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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