改訂新版 世界大百科事典 「シオカラトンボ」の意味・わかりやすい解説
シオカラトンボ (塩辛蜻蛉)
Orthetrum albistylum speciosum
トンボ目トンボ科の昆虫。日本列島の平地産のもっともふつうなトンボで,北海道から琉球諸島の南端まで,さらに中国各地,台湾にも見られるが,東南アジアや東シベリアには産しない。ただし中央アジアから南ヨーロッパにかけてはもっと小型の原亜種が知られている。体長50~55mm。雌を俗にムギワラトンボと称するが,雄でも未熟個体は麦わら色で,雄だけが成熟によって黒化し白粉を生ずる。幼虫は平地の各種の浅い水たまりに成育し,体表に剛毛を生じた肢の短いヤゴである。1年に1回,またはそれ以上世代を繰り返し,東京付近では4月末ころから9月末ころまで見られる。成熟した雄は水辺に飛来して一定位置を占めて静止し,そこに〈なわばり〉と考えられる空間を設けて飛来する雌を待つ。この付近で交尾を行い,雌が行う〈なわばり〉内の産卵行動を守る。1週間にわたって同一の〈なわばり〉を守った例も知られている。成虫の寿命は長くても30日くらいと考えられている。
シオカラトンボ属の種は世界で50種くらい知られ,とくにアフリカに多い。南北アメリカにはこの属のものはいない。日本では,同属の種としては,シオヤトンボ,オオシオカラトンボ,ミヤジマトンボ,ハラボソトンボ,ホソミシオカラトンボ,コフキショウジョウトンボなどがあり,最後の3種は琉球諸島に見られる南方種,またシオヤトンボとオオシオカラトンボは種としては日本,中国,ヒマラヤ地方まで分布する。
執筆者:朝比奈 正二郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報