日本大百科全書(ニッポニカ) 「シボリ」の意味・わかりやすい解説
シボリ
しぼり / 司暮利
絞
variegated cardinalfish
[学] Fowleria variegata
硬骨魚綱スズキ目テンジクダイ科コミナトテンジクダイ亜科ナンヨウマトイシモチ族に属する海水魚。日本では小笠原(おがさわら)諸島、愛媛県愛南(あいなん)町付近、屋久島、奄美(あまみ)大島、南西諸島などの海域から知られているが、世界では台湾南部、南シナ海、アンダマン海、ペルシア湾、ケニア、オーストラリア東岸などインド洋・太平洋に広く分布する。体は楕円(だえん)形で、側扁(そくへん)し、体高は体長の約36~37%。頭は大きく、頭長は体高よりすこし大きい。目は吻長(ふんちょう)よりも大きい。口が大きく、上顎(じょうがく)の後端は目の後縁下付近に達する。上主上顎骨はない。上下両顎と鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)に絨毛(じゅうもう)状歯があるが、口蓋骨には歯がない。前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)の後縁は円滑。鰓耙(さいは)は上枝に1本、下枝に5本。頭部と体は櫛鱗(しつりん)で覆われる。側線は退化的で、側線有孔鱗数は10~11枚。背びれは胸びれ基底上方から始まり、離れた2基であり、第1背びれは7棘(きょく)、第2背びれは1棘9軟条。臀(しり)びれは第2背びれ起部下方から始まり、第2背びれとおよそ同大で、2棘8軟条。胸びれは13軟条。腹びれは胸びれ起部下付近から始まる。尾びれの後縁は丸い。体は茶褐色または淡黄色で、無数の暗褐色斑(はん)で覆われる。鰓蓋に眼径大の顕著な眼状斑がある。胸びれを除くすべてのひれは多くの暗色の斑紋や不規則な線状斑で覆われる。サンゴ礁や岩礁域のサンゴ礫(れき)、岩穴の中などや、内湾の海藻の根元、マングローブ帯、浅い礁湖などに単独または小群ですむ。夜に活動する。最大体長は6センチメートルほどにしかならない小形種である。動物学者の田中茂穂(しげほ)による『日本産魚類図説 第37巻』(1927)では本種の和名に「司暮利」、同著者の『図説有用魚類千種 続編』(1957)では「絞り」と書かれている。和名は本種の体を覆っている斑紋が絞りの模様に似ていることに由来していると考えられる。
ナンヨウマトイシモチ族は2014年のDNAの分析結果から、本種が属するシボリ属のほか、ナンヨウマトイシモチ属、タイワンマトイシモチ属、ヤツトゲテンジクダイ属など6属に対して創設された。シボリ属には日本から本種を含めて4種が知られていて、いずれも鰓蓋上に大きい眼状斑があるのが特徴である。
[尼岡邦夫 2022年6月22日]