シルバー(読み)しるばー(英語表記)Horace Silver

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シルバー」の意味・わかりやすい解説

シルバー
しるばー
Horace Silver
(1928―2014)

アメリカのジャズ・ピアノ奏者。コネティカット州北部のノーフォークに、ポルトガル人の血を引くアフリカ系アメリカ人の父親と、ネイティブ・アメリカンの母親の間に生まれる。中学のころからバリトン・サックスを演奏し、やがてテナー・サックス転向、またピアノも弾くという多才ぶりだった。

 1950年、サイドマンとしてクラブに出演しているとき、テナー・サックス奏者スタン・ゲッツに見いだされ、彼のバンドにピアノ奏者として加わりレコーディングに参加する。1951年ニューヨークに進出し、ジャズ・クラブ「バードランド」のハウス・ピアニストのような立場で、トランペット奏者マイルス・デービス、テナー・サックス奏者レスター・ヤング、コールマン・ホーキンズなど、多くのミュージシャンと共演の機会をもつ。1952年、ブルーノートレーベルに初リーダー作『ホレス・シルヴァー・トリオ・アンド・アート・ブレイキー+サブ』を吹き込み、1954年ジャズ・メッセンジャーズの前身のグループ「ホレス・シルバー&ジャズ・メッセンジャーズ」をドラム奏者アート・ブレーキー結成。またブレーキーのアルバム『バードランドの夜』に参加する。1956年ブレーキーと別れ、トランペット奏者ドナルド・バードDonald Byrd(1932―2013)、テナー・サックス奏者ハンク・モブレーHank Mobley(1930―1986)をサイドマンに従えたクインテットを結成、アルバム『シックス・ピーシズ・オブ・シルバー』Six Pieces of Silverを録音する。このアルバムのライナー・ノートで、ジャズ評論家レナード・フェザーLeonard Feather(1914―1994)がシルバーの演奏を「ファイン・アンド・ファンキー」と評したところから、彼の名はファンキー・ピアニストとして知られるようになる。ファンキーFunkyとは俗語で、土着的で黒人的な要素の強い演奏のことを意味する。とりわけメンバーがブルー・ミッチェルBlue Mitchell(1930―1979、トランペット)、ジュニア・クックJunior Cook(1934―1992、テナー・サックス)に代わった1959年ごろからこの傾向は強くなり、シルバーのバンドはいわゆる「ファンキー・ジャズ」の代表的グループの一つとなる。このころの代表作には『ドゥーイン・ザ・シング』(1961)などがある。

 1960年代も後半になるとファンキー・ブームも後退し、人気に陰りが見られるようになる。この時期、自ら詞を書き、コーラスブラスセクションを取り入れるなど音楽の傾向が大きく変わる。1970年代の末には20年以上にわたり専属アーティストとして契約してきたブルーノート・レーベルとも袂(たもと)を分かち、1981年に自らのレーベル「シルベート・プロダクション」を設立するが、流通の問題もあってファンの話題から遠ざかっていた。1990年代に入り、アルバム『イッツ・ゴット・トゥ・ビー・ファンキー』It's Got to Be Funky(1993)でジャズ・シーンに復帰する。彼のピアノ奏法は初めバド・パウエルの影響を受けたものだったが、しだいに独自の情熱的なスタイルを身につけ、とりわけ1950年代末から1960年代初頭にかけてのファンキー・ジャズ全盛期には、日本における人気も高かった。

[後藤雅洋]

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