洋銀(読み)ようぎん

精選版 日本国語大辞典 「洋銀」の意味・読み・例文・類語

よう‐ぎん ヤウ‥【洋銀】

〘名〙
① 銅・ニッケル・亜鉛からなる合金。光沢のある銀白色で、安価な上に堅くて耐食性に富み、加工しやすいので、広く銀の代用として装飾品食器などに用いられる。電気抵抗線やばねの材料ともなる。洋白。
※風流仏(1889)〈幸田露伴〉団円「阿波縮浴衣、綿八反の帯、洋銀の簪位の御姿を見しは」
② 江戸末期から明治初期にかけて、貿易上から日本に移入された外国の銀貨。主として重量七匁二分(約二七グラム)程度のものが多い。スペインメキシコ、アメリカ、イギリス、フランスなどの銀貨であるが、当時東洋貿易市場で最も信用度と流通力のあったメキシコの八レアル銀貨が圧倒的に多かった。
※金銀御吹替次第(1800頃)三編三(古事類苑・泉貨五)「洋銀同位之銀を以、壱分銀吹増被仰出候間」

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デジタル大辞泉 「洋銀」の意味・読み・例文・類語

よう‐ぎん〔ヤウ‐〕【洋銀】

銅合金一種。銅45~65パーセントにニッケル6~35パーセント、亜鉛15~35パーセントを加えたもの。光沢のある銀白色で、加工性に富み、洋食器装飾品などに広く使用。洋白。
江戸末期から明治初期にかけて日本に移入された外国の銀貨。
[類語]しろがね純銀白銀燻し銀シルバー

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改訂新版 世界大百科事典 「洋銀」の意味・わかりやすい解説

洋銀 (ようぎん)

幕末・維新期に日本に流入した外国貨幣。1858年(安政5)6月日米修好通商条約が調印され,ついで日蘭,日露,日英,日仏との各条約も結ばれ,日本の商品を外国貨幣で購入することを認めたので,翌年5月の開港を契機として洋銀が流入した。その大部分はメキシコ・ドルであったが,イギリス,アメリカ,フランスなどの諸外国の洋銀も含まれていた。当時,内外金銀比価は著しく不均衡で,日本では銀貨に比べて金貨の価値が低く評価されていたので,これに着目した外国商人は洋銀を持ち込んで日本の一分銀に替え,これを小判,一分金と交換して海外に輸出し莫大な利益を上げた。59年には洋銀に〈改三分〉の定印を打ち,正貨として国内通用を認めた。幕府は60年(万延1)に改鋳をおこない(万延金),金銀比価の不均衡を是正したので,正貨の大量流出も一時的現象にとどまった。1871年(明治4)10月から発行の1円銀貨はメキシコ・ドルとほとんど同一の品位・量目であった。
執筆者:

中国の銀通貨の一つ。中国では大別して銀両(銀地金),洋銀,銀円(銀元)の3種の銀通貨がある。古来,中国では銅銭が正式の通貨であったが,近世以来,租税徴収や大口の商取引に銀両が使用されるようになった。洋銀はヨーロッパ諸国の鋳造銀貨(コイン)のことで,16世紀末ごろから中国に流入しはじめたが,貿易を中心に大量に流通するようになったのは,19世紀ことに南京条約(1842)以後のことで,その均質な成分と使用上の便利さから,実質価値を上回るほどの信用を得た。代表的な洋銀はスペイン・ドル(本洋,双柱などと呼ばれた),メキシコ・ドル(鷹銀,墨銀),アメリカ貿易銀(美国洋)などであるが,ほかに日本銀円(日本竜洋,竜番),香港ドル,サイゴン・ドル(サイゴン・ピアストル)なども流通した。銀円(銀元)は洋銀に対処するため,中国国内で鋳造された銀貨で,19世紀末,法定通貨として本格的に鋳造されはじめ,洋銀とともに流通したが,1935年の幣制改革により通貨は制度的には〈法幣〉になった。
執筆者:

洋銀 (ようぎん)
nickel silver

銅-ニッケル-亜鉛合金で,洋白ともいう。ニッケル6~35%,亜鉛15~35%と銅とから成る組成のものがある。耐食性がよく,美しい銀白色であるので,洋食器あるいは装飾用として広く使用される。工業的には板に加工した後,低温焼きなましをして硬化し,ばね材料とする用途が重要である。
銅合金
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「洋銀」の意味・わかりやすい解説

洋銀
ようぎん
German silver

銅 Cuにニッケル Ni10~20%,亜鉛 Zn15~25%を加えた合金で,洋白ともいう。 JISの C7351,C7451などがこれに相当する。 Cu-Ni合金は全率固溶体で,これに亜鉛を 30%以下の程度加える範囲ではやはり固溶体合金である。色沢が銀に似て耐食性もよいので,古くから装飾品,食器などに銀の代用品として用いられ,また医療器械,計測器にも使われる。普通品の引張り強さは 480~490MPa程度で特に強くはないが,Ni18~20%,Zn20~28%のものは 686MPaに増強,冷間加工材はさらに 784MPa以上となり,特にばね性がよくなるので,リレー接点,スイッチジャックなどの電気機器用,計測器用ばねとして重用される。鋳物用には Ni20%,Zn5~10%のほかスズ3%,鉛5%を加えたものが,バルブ,コック,光学器械部品などに用いられる。 (→銅ニッケル合金 )

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化学辞典 第2版 「洋銀」の解説

洋銀
ヨウギン
German silver, nickel silver

洋白ともいう.Cu 52~80質量%,Ni 5~35質量%,Zn 10~35質量% よりなるCu-Ni-Zn三元合金.その光沢は銀に似て,昔から装飾用,食器,楽器,そのほか銀の代用として利用されてきた.一方,ばね特性および耐食性にすぐれ,ばね,化学機械用材料として工業的に広く用いられている.この合金はまた,電気抵抗が高く,耐熱,耐食性がよいので,一般電気抵抗体として利用される.しかし,抵抗の温度係数が高いので,精密抵抗器用としては向かない.主として加工材に製造され,鍛造,圧延,焼なましにより,線材,板材に加工し,上記の使用に供されている.鋳物としては,耐食性と装飾の面から,バルブ,コック,光学機器部品,装飾品,楽器などがある.

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「洋銀」の解説

洋銀
ようぎん

幕末期の開国以降,日本に流入した外国貨幣の総称。流入貨幣にはアメリカ・ドル,ポンド,フラン,ルーブルなどもあったが,最も多かったのがメキシコ・ドル(メキシコ銀)で,一般にはこれをさす場合が多い。1859年(安政6)開港とともに,生糸・茶などの輸出品の対価として流入した。さらに国内外の金銀比価の差から日本の金貨を海外へもち出すため大量流入し,万延期の幣制改革による金相場切上げを招いた。開港場ではそのまま使用が認められ,明治期に入っても幣制改革の際には基準通貨の確定に際して洋銀との交換率が考慮されたほか,横浜為替会社ではメキシコ銀を引当てとする洋銀券の発行も行った。

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旺文社世界史事典 三訂版 「洋銀」の解説

洋銀
ようぎん

明末期,スペインがフィリピンに進出して以来,中国に流入した外国銀貨
いっぱんにはメキシコ銀の名で呼ばれる。16世紀以後,ヨーロッパ勢力の進出に伴って流入した銀貨・銀塊のことで,全国に流通した。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「洋銀」の解説

洋銀(ようぎん)

銀元
メキシコ銀

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世界大百科事典(旧版)内の洋銀の言及

【一分銀】より

…天保一分銀のほか,安政6年(1859)8月に安政一分銀が発行され,慶応4年(1868)7月に貨幣司吹一分銀(別称,亜鉛差一分銀)が鋳造された。幕府は安政5年欧米諸国と締結した通商条約において,外国の貨幣と日本の貨幣とを同種同量方式により交換することを規定したので,洋銀(メキシコ・ドル)1枚(1ドル)と一分銀3枚とが交換され,一分銀4枚で小判1両に引き換えられ,日本の金貨が海外に盛んに流出した。幕府は安政6年12月から7匁以上の量目のある洋銀に〈改三分定〉の極印を打ち国内で通用することを認めた。…

【円】より

… 明治政府の鋳貨が円形に統一されているという特徴をもつため,〈円〉という単位名が生まれたというのは俗説である。18世紀から19世紀にかけて中国に流入したドル銀貨=洋銀とよばれるスペイン,メキシコの銀貨は,銀塊としての中国固有の銀貨に対し,その形態的特徴から中国では銀円とよばれた。これが,イギリス香港(ホンコン)造幣局鋳造(1866‐68)の香港ドル銀貨の中国人用極印が〈香港一円〉となった理由である。…

【銀】より

…スペインのペソpeso銀貨(スペイン・ドル,メキシコ・ドルと呼ばれる)の鋳造額は,とくにメキシコに鋳造局が設立(1535)されると飛躍的に増加した。これは南北アメリカとヨーロッパで広く流通したばかりでなく,大幅な輸入超過の対アジア貿易の支払手段として大量にアジア諸国へ流出した(洋銀)。例ばマニラのスペイン商館から明末・清初の中国へ200万~300万ドルのスペイン・ドルが流出している。…

【銅合金】より

…JISではさらに下1けたを加えて4けたの数字で分類しており,UNS(Unified Numbering System)では下2けたを加えて5けたの数字で分類している。これらの合金を組成によってまとめると,純銅,添加元素が少ない高銅合金,亜鉛をおもな添加元素とする黄銅系,スズをおもな添加元素とする青銅系,ニッケルを含むキュプロニッケル(白銅),銅‐ニッケル‐亜鉛合金の洋銀(洋白),その他となる。また,別の分類としては,塑性加工によって線,棒,板,管などにして使用される展伸材(伸銅品)と鋳物として使われるものとに大別される。…

※「洋銀」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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