改訂新版 世界大百科事典 「シンジュサン」の意味・わかりやすい解説
シンジュサン (樗蚕)
Samia cynthia
鱗翅目ヤママユガ科の昆虫。翅の開張10~12cmの大型ガ類。前翅の翅頂部は出っ張り,上辺を白線で縁取られた黒紋があり,前・後翅とも翅の中央部に三日月形の白紋と,内側が黒く外側が白色と紅色の横線がある。幼虫は体長約5cm,体は太く,白粉に覆われた淡青緑色,背面に肉質突起を連ねる。シンジュ,ニガキ,キハダ,クヌギ,エゴノキ,クスノキなど多くの樹木につく。老熟すると食樹の葉を縦に長く巻いて褐色の繭をつくって蛹化(ようか)する。さなぎで越冬。成虫は温暖地では年2回,5~6月と8~9月に,寒冷地では年1回夏に発生する。夜行性で,よく灯火に飛来する。日本全国,朝鮮半島,中国から東南アジアに広く分布し,北アメリカでは中国からもってこられたものが野生化しており,キャンピングカーの普及とともに,卵やさなぎが運ばれ,全国的に分布が広がってしまったという。
エリサン,あるいはヒマサンと呼ばれる飼養品種は,インドのアッサム地方で繭から糸をとる目的で昔から飼育されていたもので,日本,台湾,ヨーロッパの一部に絹糸虫として移入されたが,実用的には重視されず,現在では一部で実験用に飼われているにすぎない。原産地では年5回くらい飼育され,アリンディ絹糸という名で利用されているという。繭には黄色,赤色,褐色,白色など種々の色がある。成虫は野生のシンジュサンより少し小型で白色帯が広い。
執筆者:井上 寛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報