15世紀から16世紀にかけてヨーロッパに進出,拡散したジプシーの音楽。その生活様式と同じように,おもに居住する国の音楽とのかかわり合いのなかで,それぞれ異なった音楽をもつようになっているが,しかしそのなかでもスペインや東ヨーロッパのジプシーの音楽は比較的独自性を保ち,強烈な個性で特に知られている。
ハンガリー,ルーマニアなど,東ヨーロッパのジプシー音楽は,おもに都市で職業的器楽奏者として生活するジプシーの演奏する音楽と,ロマニー語と呼ばれるジプシー固有の言葉を話し,伝統的生活様式に固執して閉鎖的集団で生活するいなかのジプシーの音楽とに大別される。前者の器楽奏者としてのジプシー音楽家の活躍は,例えばハンガリーではすでに15世紀に始まっている。このジプシー音楽家を有名にしたのは,18世紀の終りから19世紀の初めにかけてヨーロッパの大衆音楽をリードした,バイオリンなどの弦楽器と民族楽器ツィンバロムのアンサンブル,いわゆるジプシー楽団の活躍であった。この楽団は当時流行していた大衆音楽はどんなものでも演奏したが,その緩急自在,きわめて情熱的・即興的な演奏のスタイルと主要なレパートリーであったハンガリーの民衆音楽ベルブンコシュverbunkos(新兵募集の行進音楽に由来する)は芸術音楽にも影響を与え,リストやブラームスのハンガリーをタイトルにうたった作品の素材となっている。都会のジプシーの音楽がもっぱら器楽の音楽であるのとは対照的に,いなかのジプシーの音楽は声楽が中心である。ジプシーの歌には,自由なリズムで細かいメリスマのついた旋律をゆっくりしたテンポで歌う抒情歌メセラキ・ディリ(聴く歌)と,はっきりした拍子をもち,速いテンポで歌われる踊り歌ケリマスキ・ディリの2種類のタイプがある。前者は,貧しい生活や不幸な運命を嘆く悲しみの歌であり,後者は,指を鳴らしたり,唇を震わせて音を出したりという独特のリズム伴奏を伴った,肉体の躍動する,官能的陶酔の喜悦の歌である。
ここに表現されている喜びと悲しみの感情の鋭い対照は,どの国のジプシー音楽にも共通するもので,特にその情熱の緊迫した表現という点では,スペインのフラメンコが有名である。フラメンコは,南スペイン,アンダルシア地方の民謡を母体としたジプシーの歌(カンテ・フラメンコ),踊り(バイレ・フラメンコ),ギター音楽(トケ)の総称である。ジプシーがスペインに現れたのは15世紀の半ばごろで,英語のジプシーGypsyは,彼らがエジプトからきたと考えられたことを示している。17~18世紀にアンダルシア地方に定住したジプシーの音楽家が,おもに下町のレストランや酒場で歌い手,踊り手,ギタリスト各1人ずつという小さなコンビで演奏するのがそのはじめの演奏形態であったが,しだいに劇場の舞台でも演奏される大規模なものに発展してきている。レパートリー(曲種)の中心は,もっぱら悲恋の苦しみや人生の絶望などの深い嘆きの心情を吐露するカンテ・ホンド(カンテ・グランデ)と,人生の楽しさを謳歌する軽快なリズムのカンテ・チーコ(カンテ・フラメンコ)である。この二つのタイプは,ジプシーに共通する悲哀と喜悦の情熱的な表現を反映している。
執筆者:谷本 一之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ヨーロッパを中心に、東アジアを除くほぼ世界中に分布、生活する少数民族ロマによる民俗音楽。
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