スズメガ(その他表記)hawk moth

翻訳|hawk moth

改訂新版 世界大百科事典 「スズメガ」の意味・わかりやすい解説

スズメガ (雀蛾)
hawk moth

鱗翅目スズメガ科Sphingidaeの昆虫の総称。翅の開張3cmから15cmを超えるものまで,大きさはさまざまだが,主として中型から大型のガ類を含む。世界には約1000種,日本では二,三の偶産種を含め70種記録されている。体は太く紡錘形,翅は細長く,前翅は長い三角形で,翅頂はとがっている。強壮な筋肉をもち,飛翔(ひしよう)力の強い種が多い。一般に夜行性だが,エビガラスズメのように夕暮れ時に活動し,花みつを吸うものもあるし,ホウジャク類やオオスカシバのように昼飛性の種もかなりある。東南アジア,アフリカ,南アメリカの亜熱帯から熱帯に種数が多く,寒冷地では少ない。口吻(こうふん)(舌)は多くの場合よく発達し,ことにエビガラスズメの舌は10cmに達し,日本のガの中でもっとも長いが,一部では退化している。メンガタスズメのようにミツバチの巣に舌をつきさしてみつを吸うような種では舌が硬化し,先が鋭くとがっている。

 スズメガの一部は長距離を飛ぶ渡りガとしてよく知られており,イギリス本土から記録されている23種のうちの約1/3は,年々アフリカ方面から飛来し,ときには一時的に1~2世代を送って消滅してしまうような偶産ガである。日本でもハガタスズメは,沖永良部島でわずか2匹が採集されているにすぎないし,アカオビスズメなども散発的に採集されるだけで土着性はあやしい。幼虫キョウチクトウを食べるキョウチクトウスズメは,アフリカから年々ヨーロッパへ飛来するので有名だが,東南アジアまで分布しており,1976年以降沖縄本島に土着してしまった。みずから飛んできたものでなく,人為的に運ばれた疑いが強い。鹿児島県下で一時的に発生したものは,沖縄からの侵入者と推定されるが,低温のため冬を越せずに死滅してしまう。

 コエビガラスズメは山間部に生息しているが,平野部の住宅地で庭木としてイヌツゲがよく植えられるので,しばしば新開地のイヌツゲに幼虫がついているところを発見され,また成虫灯火に飛来することがある。幼虫は同筒形の芋虫で,腹部第8節に尾角(びかく)と呼ばれる突起をもつ。草や木の葉を食べるが,農林害虫としてそれほど重要視される種はない。シモフリスズメはゴマやキリの害虫だし,エビガラスズメはサツマイモに,ブドウスズメクルマスズメコスズメなどはブドウの葉を食べる。全国的にごくふつうに見られるモモスズメは,モモ,ウメ,サクラそのほか多くの樹木や果樹につくし,オオスカシバは庭木のクチナシにつく。クチナシの木が小さいとき,多数の幼虫が寄生すると,葉が坊主になってしまうことがある。

 日本最大のオオシモフリスズメは,翅の開張が13~15cmに達し,早春にだけ成虫の出現する変わったスズメガで,本州中南部から四国と九州の北半部に分布している。幼虫はウメ,スモモ,サクラなどおもに人為的に植えられた樹木に寄生する。幼虫もさなぎも成虫もシュッシュッという摩擦音を発する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「スズメガ」の意味・わかりやすい解説

スズメガ
すずめが / 雀蛾
hawk moth

昆虫綱鱗翅(りんし)目スズメガ科Sphingidaeの昆虫の総称。中形から大形のガで、大きいものははねの開張150ミリメートルを超える。胴は太く、流線形、はねは細長く、前翅の先端はとがる。よく発達した筋肉とジェット機のような体形によって、飛翔(ひしょう)力がきわめて強い種が少なくない。夜行性の種が多いが、一部は昼飛性(ホウジャク類、オオスカシバなど)、一部は薄暮性(エビガラスズメ)である。花を訪れ蜜(みつ)を吸う種類のなかには、口吻(こうふん)が長い種もあって、ハチドリのように、花の近くで飛びながら静止し、蜜を吸うこともある。メンガタスズメのように、ミツバチの巣に舌を突き刺して蜜を吸う種類では、口吻が頑丈で、先が鋭くとがっている。全世界に1000種以上分布しているが、熱帯地方に種の数が多い。日本からは70種記録されているが、そのうちの3、4種は土着種でなく、偶産的にとれたものである。

 幼虫はイモムシで、第8腹節に尾角という1本の突起をもっている。樹木や草本の葉を食べ、土中あるいは石の下などで蛹化(ようか)する。ゴマ(メンガタスズメ、シモフリスズメ)、モモ、ウメ、サクラなど(モモスズメ、ウチスズメ)、ブドウ(ブドウスズメ、クルマスズメ、ビロードスズメ、コスズメ、セスジスズメ)、サツマイモ(エビガラスズメ)などの害虫もいるが、大きな被害はない。

 夏季、夕飯を楽しんでいるとき、灯火に誘引されて屋内に飛び込んできたスズメガが、電灯や壁にぶつかって鱗粉をまき散らすと、楽しい食事をしているのに一時中断しなければならないので、不快昆虫の一つに数えられよう。飛翔力の強いエビガラスズメなどは、かなり長距離を移動することができるので、分布が非常に広い。日本全土ばかりでなく、ユーラシア大陸からアフリカ、東南アジアから太平洋の島々にまで分布圏を広げている。アフリカで羽化したエビガラスズメが、年々地中海を越えてヨーロッパに渡っていく。しかし、寒冷地で冬を越すことができないので、緯度の高い地域では死に絶えてしまう。また、都市近郊の住宅地で庭木としてよくイヌツゲを植えるので、幼虫がこの植物を好むコエビガラスズメが、年々住宅地で発生するようになった。幼虫がクチナシの葉を食べる昼飛性のオオスカシバも、庭に植えられたクチナシを求めて活発に移動し、都会地でしばしば発生する。このように人為的な環境に適応し、繁栄しているスズメガもある。

[井上 寛]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スズメガ」の意味・わかりやすい解説

スズメガ
Sphingidae; hawk moth

鱗翅目スズメガ科の昆虫の総称。一般に中~大型のガで体は太い。頭部は比較的大きく,単眼を欠く。触角はやや太く,糸状,鋸歯状または棍棒状で,先端は細く鉤状になり,雄では繊毛塊を列生する。口吻の長いものが多いが,退化して機能を失っているものもある。前翅は細長い三角形状。成虫は飛翔力が強く,多くは夜間活動して灯火に来るが,ホウジャクオオスカシバなどのように昼間活動して花に集るものもある。飛びながら長い吻を伸ばして吸蜜する。幼虫は大型の芋虫でほとんど毛がなく,第8腹節に角質の尾角がある。各種の植物の葉を食べる。日本に約 70種,全世界に約 1000種を産する。本科に属するキイロスズメ Theretra nessusはやや大型種で前翅長 50mm内外,体は淡褐色で,前翅前縁は緑色を帯びるが,後翅は黒く,褐色帯がある。腹部両側は黄褐色。幼虫はヤマノイモ,ツクネイモ,サトイモなどの葉を食べる。本州以南の日本全土,台湾,中国,インドなどに広く分布する。

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百科事典マイペディア 「スズメガ」の意味・わかりやすい解説

スズメガ

鱗翅(りんし)目スズメガ科の総称。体は流線形で,翅(はね)は細長くほぼ三角形。飛ぶ力が強く活発,主として夜間活動し,花にとまらないで蜜を吸う。幼虫は芋虫の代表で,円筒形,無毛,第8腹節に尾角がある。全世界に多くの種類があり,日本にはオオスカシバホウジャク,ベニスズメ,コスズメなど約70種いる。
→関連項目芋虫

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世界大百科事典(旧版)内のスズメガの言及

【ガ(蛾)】より

…そして次のような科が日本に分布している。ボクトウガ科(7種),ハマキガ科(556種),ホソハマキガ科(40種),ミノガ科(21種),ヒロズコガ科(33種),チビガ科(2種),ハモグリガ科(19種),ホソガ科(136種),コハモグリガ科(5種),アトヒゲコガ科(12種),ヒカリバコガ科(2種),スガ科(81種),メムシガ科(26種),ナガヒゲガ科(2種),ホソハマキモドキガ科(19種),ササベリガ科(2種),マイコガ科(2種),ホソマイコガ科(1種),ヒロハマキモドキガ科(2種),スカシバガ科(25種),ハマキモドキガ科(32種),ニセハマキガ科(1種),マルハキバガ科(57種),スヒロキバガ科(9種),ニセマイコガ科(10種),ヒロバキバガ科(1種),クサモグリガ科(4種),ツツミノガ科(26種),ネマルハキバガ科(2種),キヌバコガ科(2種),カザリバガ科(24種),ヒゲナガキバガ科(13種),キバガ科(75種),ニセキバガ科(1種),ニジュウシトリバガ科(3種),シンクイガ科(10種),マダラガ科(28種),セミヤドリガ科(2種),イラガ科(26種),セセリモドキガ科(3種),マドガ科(24種),メイガ科(600種),トリバガ科(56種),カギバガ科(30種),オオカギバガ科(2種),トガリバガ科(38種),シャクガ科(790種),ツバメガ科(4種),フタオガ科(18種),アゲハモドキガ科(1種),イカリモンガ科(2種),カレハガ科(20種),オビガ科(1種),カイコガ科(5種),イボタガ科(1種),ヤママユガ科(12種),スズメガ科(70種),シャチホコガ科(120種),ドクガ科(52種),ヒトリガ科(107種),ヒトリモドキガ科(5種),コブガ科(39種),カノコガ科(3種),ヤガ科(1200種),トラガ科(6種)。以上のように,日本産のガは4500種にも達しているが,チョウの種数はその1/20くらいしかない。…

【体温】より

…また,飛んでいる昆虫の体温は外温より高い。スズメガの1種では,飛んでいるときの胸部の温度は気温が17~32℃のときほぼ42℃である。このガが飛びたつには胸部の温度が38℃以上になる必要があり,飛ぶ前に羽を動かしてウォーミング・アップをする。…

※「スズメガ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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