日本大百科全書(ニッポニカ) 「スズメガ」の意味・わかりやすい解説
スズメガ
すずめが / 雀蛾
hawk moth
昆虫綱鱗翅(りんし)目スズメガ科Sphingidaeの昆虫の総称。中形から大形のガで、大きいものははねの開張150ミリメートルを超える。胴は太く、流線形、はねは細長く、前翅の先端はとがる。よく発達した筋肉とジェット機のような体形によって、飛翔(ひしょう)力がきわめて強い種が少なくない。夜行性の種が多いが、一部は昼飛性(ホウジャク類、オオスカシバなど)、一部は薄暮性(エビガラスズメ)である。花を訪れ蜜(みつ)を吸う種類のなかには、口吻(こうふん)が長い種もあって、ハチドリのように、花の近くで飛びながら静止し、蜜を吸うこともある。メンガタスズメのように、ミツバチの巣に舌を突き刺して蜜を吸う種類では、口吻が頑丈で、先が鋭くとがっている。全世界に1000種以上分布しているが、熱帯地方に種の数が多い。日本からは70種記録されているが、そのうちの3、4種は土着種でなく、偶産的にとれたものである。
幼虫はイモムシで、第8腹節に尾角という1本の突起をもっている。樹木や草本の葉を食べ、土中あるいは石の下などで蛹化(ようか)する。ゴマ(メンガタスズメ、シモフリスズメ)、モモ、ウメ、サクラなど(モモスズメ、ウチスズメ)、ブドウ(ブドウスズメ、クルマスズメ、ビロードスズメ、コスズメ、セスジスズメ)、サツマイモ(エビガラスズメ)などの害虫もいるが、大きな被害はない。
夏季、夕飯を楽しんでいるとき、灯火に誘引されて屋内に飛び込んできたスズメガが、電灯や壁にぶつかって鱗粉をまき散らすと、楽しい食事をしているのに一時中断しなければならないので、不快昆虫の一つに数えられよう。飛翔力の強いエビガラスズメなどは、かなり長距離を移動することができるので、分布が非常に広い。日本全土ばかりでなく、ユーラシア大陸からアフリカ、東南アジアから太平洋の島々にまで分布圏を広げている。アフリカで羽化したエビガラスズメが、年々地中海を越えてヨーロッパに渡っていく。しかし、寒冷地で冬を越すことができないので、緯度の高い地域では死に絶えてしまう。また、都市近郊の住宅地で庭木としてよくイヌツゲを植えるので、幼虫がこの植物を好むコエビガラスズメが、年々住宅地で発生するようになった。幼虫がクチナシの葉を食べる昼飛性のオオスカシバも、庭に植えられたクチナシを求めて活発に移動し、都会地でしばしば発生する。このように人為的な環境に適応し、繁栄しているスズメガもある。
[井上 寛]