2国間ないし多国間の自由貿易協定において、関税撤廃や関税引下げ後、対象産品の輸入急増で国内産業に重大な損害が出た場合、あるいは相手国に協定違反があった場合に、その産品の関税を元の税率へ戻すことができるという条項。スナップ・バックsnap-backとは英語で「元の状態にすばやく戻す」という意味である。保護貿易主義を避けるため、ガット(関税および貿易に関する一般協定)や世界貿易機関(WTO)の貿易ルールでは、いったん引き下げた関税は元に戻さないことが原則である。しかしガットやWTOのルールでは、輸入急増で国内産業に重大な損害をもたらした場合には、関税率を引き上げて、スナップ・バック条項の一種である緊急輸入制限(セーフガード)措置をとることを認めている。スナップ・バック条項を発動する際には、最恵国待遇(MFN)税率まで引き上げるのが一般的である。また発動された国・地域が発動に不満がある場合、多国間協定ならば、WTOなどの紛争委員会(パネル)に提訴できる。スナップ・バック条項とは逆に、いったん自由化した規制を元には戻さないことを約束する条項を、歯車と爪を組み合わせて逆回転しない機械部品「ラチェットratchet」になぞらえて、ラチェット条項とよぶ。
スナップ・バック条項はアメリカとカナダが結んだ自由貿易協定、アメリカと韓国のFTA協定などに盛り込まれており、日本がTPP(環太平洋経済連携協定)交渉と並行して進めているアメリカとの自動車貿易交渉にも盛り込むよう、アメリカが要求している。セーフガード措置については、新興国や発展途上国が発動する事例が多いが、日本もウルグアイ・ラウンドが妥結した1994年(平成6)以降、牛肉、豚肉、生糸、乳製品などの輸入が急増したとして発動した実績がある。アメリカは2002年(平成14)に日本、ヨーロッパ連合(EU)、韓国、中国などからの鉄鋼輸入が急増したとして鉄鋼関連品目の関税を引き上げるセーフガード措置を発動したが、WTOパネルが協定違反と認定し、2003年に発動を撤廃したことがある。
[編集部]
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