世界貿易機関(WTO)の加盟国が、ある国に与える最も有利な待遇を他の全ての加盟国に対して与えなければならないというルールで、貿易体制を支える基本原則の一つ。米中貿易摩擦では、WTO紛争処理機関が2020年9月に、米国による中国製品への高関税は「最恵国待遇原則に反する」と指摘した。
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通商条約や通商協定において、ある国が第三国に貿易や関税面などで与えている待遇よりも悪い待遇を相手国にしないことを意味する。これを規定した条項を最恵国条項(または最恵国約款)most-favoured-nation clauseという。この条項により相手国は現在および将来において、第三国に比して不利益を受けるおそれのないことが保障される。しかし、特恵関税や関税同盟などは従来この条項の例外として認められている(たとえば1947年ガット第1条〈一般的最恵国待遇〉第2項)。また、この条項には無条件最恵国条項と条件付最恵国条項とがある。前者は、第三国に与えた利益をなんらの反対給付なしに相手国に与えるものであり、後者は、第三国が利益を受けるについて提供したと同様な反対給付のない限り、相手国にその利益を与えないというものである。最恵国条項は重商主義の最盛期であった17世紀後半から採用されていたが、それは無条件の形態に近いものであったといわれる。条件付最恵国条項は18世紀後半になってアメリカにより初めて採用されている(1778年の米仏通商条約)。これはアメリカ大陸諸国で採用されることが多かったのでアメリカ条項ともいわれる。これに対する無条件最恵国条項の典型的なものとして、1860年に締結された英仏通商条約がある。これはヨーロッパ大陸諸国で広く採用されたのでヨーロッパ条項ともいわれる。アメリカは1778年の米仏通商条約以来、約150年の間、有条件主義をとっていたが、1923年に締結したブラジルとの通商条約から無条件主義に転向している。第二次世界大戦後、世界大の規模において、より自由な貿易を実現することを目的として成立したガットやガットを継承して95年に発足したWTO(世界貿易機関)は無条件主義の立場をとり、これに基づく最恵国待遇と自由貿易(貿易制限の禁止と関税の引下げ)との二つを基本原則として運営されている。
[田中喜助]
『油本豊吉著『貿易政策大系』増補版(1959・広文社)』▽『平岡謹之助著『貿易政策論 下巻』(1956・有斐閣)』
2国間の通商航海条約において,締約国の一方が他方の国民に,最も有利な地位にある第三国(最恵国)の国民に与えるのと同等に与える待遇。この待遇は,当事国がそれぞれ相手国を第三国以下に差別待遇しないことを約束する旨の最恵国約款(または最恵国条項most-favoured-nation clause)を結ぶことによってなされる。いかなる事項について最恵国待遇を与えるかはそれぞれの通商航海条約によって必ずしも同一ではない。多くの場合には,通商,航海,経済活動,内国課税,領事に関する事項などについて与えられる。このうちとくに重要なのは関税に関するもので,この条項が含まれている場合には,それぞれ相手国産品の輸入に際しては第三国産品に課している関税率の中で最も低いものを適用することを義務づけられる。最恵国待遇がヨーロッパ諸国で広くみられるようになったのは17世紀の中ごろからで,19世紀以後にはほとんどすべての2国間通商航海条約に含まれるようになった。現在では多数国間条約に含まれることもあり,例えば,〈関税および貿易に関する一般協定〉(GATT(ガツト))の原則の一つとなっている。最恵国待遇には無条件主義と条件主義とがある。前者は,相手国に対して無条件にただちに最恵国の待遇を与えるのに対して,後者は,相手国がなんらかの反対給付を提供する場合に限ってこれと等しい利益または待遇を与えるものである。1860年,英仏間で結ばれた英仏通商条約(コブデン条約)以来,無条件主義が一般化し,自由貿易促進のための最恵国待遇の役割が評価されるようになった。1960年代に入ると,発展途上国の間で,最恵国待遇は国際社会における経済的弱者に対する差別を内包するものだという不満の声が表面化するようになり,64年の国連貿易開発会議(UNCTAD(アンクタツド))以来,一般特恵制度を主張するに至っている。
→特恵関税
執筆者:岡村 尭
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(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)
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…すでに1834年にはドイツ関税同盟が成立しており,60年の英仏自由通商条約(コブデン=シュバリエ条約)以降,つぎつぎと通商条約,関税協定が結ばれ,ヨーロッパ各国へ貿易自由化の波が広がっていった。英仏自由通商条約は,最恵国条項(最恵国待遇)が採り入れられ,差別関税が防止された点でとくに重要である。 しかし自由貿易体制は,工業先進国イギリスをさらに発展させたが,工業後進国の発展にとっては必ずしも望ましい結果がもたらされなかった。…
…この協定による税率は,条約の有効期間中は改定が困難であり,国際情勢の変化の激しい現代には適しないので,とくに期間を短くして交渉による改定を容易にするものが多い。条約によって低い税率の関税を相手国に認めた場合,すでに結んでいる条約締結国にもそれと同等の待遇(最恵国待遇)を与えることを約した取決めを最恵国約款(または最恵国条項)という。これは,つねに均等な機会を与えたりあるいは受けたりしようとする近代的国際精神の反映であり,19世紀以後はほとんどすべての2国間通商条約に見られるようになった。…
※「最恵国待遇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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