藍藻(らんそう)綱ユレモ科の1属。長さ0.3~0.5ミリメートル、太さ6~10マイクロメートルで、毛様螺旋(らせん)状をした青緑色の微細藻類である。名称は螺旋やねじれなどを意味するラテン語spiraに由来する。形態や生態は藻類に近く、強アルカリ性塩水湖などに生息し、クロロフィルによる光合成によって成長する。アフリカや中央アメリカの熱帯の湖で自生が確認されており、アフリカ中央部のチャド湖周辺ではこれをダイエとよび、貴重なタンパク源として古くから食用にしてきた。
スピルリナの成分組成は、粗タンパク質50~70%、脂質2~9%、炭水化物10~20%、粗繊維1~4%、灰分5~10%である。必須栄養素が多く含まれ、未来の食糧ともよばれる。まだ研究段階であるが、生活習慣病の予防効果、β(ベータ)-カロテンをはじめとする含有成分によって、抗酸化作用、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)やヒトサイトメガロウイルスをはじめとする多くの病原体に対する抗ウイルス作用、抗腫瘍(しゅよう)作用、免疫やアレルギーなどに対する作用など、ヒトへの有効性が期待されている。すでに健康補助食品として人気は高い。
熱帯地域であれば低コストで簡単に人工栽培が可能で、生産性も高いため、アフリカを中心に貧困に苦しむ地域で注目されており、ザンビアでは試験栽培計画が進んでいる。海外向けに栄養補助食品として製品開発する一方、スピルリナを地産地消することによる国内の貧困層の深刻な栄養不良や免疫力低下の抑制が期待されている。
[編集部]
ラン藻綱ユレモ科の1属で,細胞糸が規則正しくらせん状に巻くことが特徴である。このことからラセンモの和名で呼ばれることがある。ユレモと同じように,細胞糸はゆれ運動をする。海にも生育するが,淡水産の種類が多く,日本には約10種の生育が知られる。細胞糸の太さは径1~2μmの種類が多いが,S.princeps W.et G.WestやS.gigantea Schmidleのように,4~5μmの太さになる大型の種もある。アフリカのチャド湖の北に点在する天然の炭酸ナトリウムを高濃度に含む小さい湖には,スピルリナ属の1種S.platensis(Nordst.)Geitlerが大量に産し,土地の人はケーキにして食べる。このラン藻は藻体の乾燥重量の45~49%に及ぶ多量のタンパク質を含み,また光合成による高い生産性を示すので,将来の食糧品として注目され,最近,人工養殖による企業化も試みられている。
執筆者:千原 光雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
… 淡水藻の中には食用として利用されるものがある。おもなものにタンパク質を多量に含み栄養価の高い緑藻のクロレラとラン藻のスピルリナ,美味で干しノリまたはあえ物や吸物などの具として珍重される緑藻のカワノリ,ラン藻のスイゼンジノリとカワタケNostoc verrucosum (L.) Vaucher,中国料理に使われるハッサイ(髪菜)Nostoc commune Vaucher var.flagelliformis (Burk.et Curt) Bornet et Flach.などがある。とくにクロレラとスピルリナは光合成による高い生産性を示すので食品として注目を集め,すでに人工養殖が企業化されている。…
…細胞糸ははげしくゆれ運動をする性質があり,和名はこのことに由来し,学名も〈振れ動く〉の意である。似た藍藻スピルリナは細胞糸がらせん状に巻くことで,フォルミディウムPhormidiumは細胞糸の周囲に粘質物の鞘をもつこと,リングビアLyngbyaは固い鞘をもつことで,それぞれ区別される。海に生育し,ときどき大繁殖して赤潮を起こすトリコデスミウムの体はユレモと同一構造の細胞糸が多数からみ合ってできている。…
※「スピルリナ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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