翻訳|sleeve
洋服での腕を通したり包んだりする部分の総称、日本語の袖(そで)にあたる。
[石山 彰]
「すべる」意味のインド・ヨーロッパ語がドイツ語を通してslēfeという古代英語になり、やがてsleeveとして定着した。これがその語源とされている。紀元前1500年代のクレタの男女や紀元前8世紀のアッシリアの男女は、ぴったりした胴衣やチュニックを着ており、短い袖がついている。しかし、古代の衣服の大半はドレーパリー(巻衣)であったところから、ことさら独立した袖という概念は成り立ちにくかったと思われる。
しかし、中世になって東洋との交流が盛んになると、多様なスリーブが登場する。袖口でラッパ形に広がる大きな三角形の袖(マジャール袖ともいう)はその典型である。同末期のゴシック期には、衣服そのものの構造的発展に伴ってさまざまなスリーブが現れ、やがて次期ルネサンスになると、スリーブの形自体が流行の一つの焦点になってくる。ハム形、ソーセージ形、バグパイプ形……といったぐあいである。17世紀のバロック期以後になって、男子服ではコート型の長上着が一般化すると、スリーブもほとんど定型化した筒型になり、この傾向はいまに及んでいる。
他方、女子服でのスリーブは、半袖の袖口から通例2~3段のラッフルのカフスをのぞかせる優雅なものに変わり、18世紀いっぱい続けられた。しかし、19世紀に入ってモードの変化が激しくなると、スリーブの形の変化もふたたび活発になり、エレファント・スリーブ、レッグ・オブ・マトン・スリーブ(ジゴ袖、羊脚袖ともいう)、ビショップ・スリーブなど、華やかな展開をみせた。しかし、20世紀に入って機能主義が高まってくると、婦人服自体も簡潔な方向をたどり、スリーブも控え目なものになった。
[石山 彰]
こうした西洋服における煩雑なスリーブの変化にもかかわらず、イギリスの学者カニングトンは、これを次のように系統的に分類している。
〔1〕にはノー・スリーブ、タイト・スリーブ、テーラード・スリーブなどが含まれ、〔2〕にはハンギング・スリーブ、フォールス・スリーブ(腕を通さない装飾としての偽の袖)など、〔3〕にはドルマン・スリーブ(袖付けで極端に緩く、手首で細まる袖)、ビショップ・スリーブ(袖付けで細く、袖口で緩い袖)、ジゴ袖(前出)などが、また〔4〕にはパフ・スリーブ(小さく膨らんだ袖)、バルーン・スリーブ(風船状にやや大きく膨らんだ袖)、ケープ・スリーブなどがある。
スリーブの種別は、これにとどまらず、分類の基準も別に次のいくつかが設定できる。(1)長さから スリーブレス(袖なし)、ハーフ・レングス・スリーブ(半袖)またはエルボー・レングス・スリーブ(肘(ひじ)丈袖)、スリー・クォーター・レングス・スリーブ(七分丈袖)、リスト・レングス・スリーブ(手首丈袖)、ロング・スリーブ(長袖)など。(2)裁断上から ワンピース・スリーブ(一枚裁ちの袖)、ツーピース・スリーブ(二枚裁ちの袖)など。(3)袖付けの状態から セットイン・スリーブ(普通袖)、キモノ・スリーブ(身頃(みごろ)と一続きの袖)、フレンチ・スリーブ(同前)、ラグラン・スリーブ(襟元から肩、袖と一続きで、切り替え線が前後で八の字形になった袖)、ドルマン・スリーブ(前出)、ハイショルダー(怒り肩の袖)、ドロップ・ショルダー(肩下がりの袖)など。(4)装飾上から ティアード・スリーブ(段々状になった袖)、スラッシュド・スリーブ(切り目装飾のある袖)、マムルーク・スリーブ(何段にも連続的に膨らませた袖)などがある。
[石山 彰]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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…衣服の腕を覆う部分の名称。
[洋服の袖]
スリーブsleeveともいい,半袖,長袖,七分袖など長さはさまざまである。袖がつくまでは,古代ギリシアのイオニア風キトンやローマのトゥニカのように,貫頭衣に帯を締めて着装すると,肩から腕に垂れる部分が自然に袖を形づくった。…
※「スリーブ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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