改訂新版 世界大百科事典 「ズダヤクシュ」の意味・わかりやすい解説
ズダヤクシュ
Tiarella polyphylla D.Don
温帯のブナ林内や亜高山帯針葉樹林内など,深山の湿った林床にはえるユキノシタ科の多年草。根茎は細く,地下に走出枝を伸ばす。数枚の根生葉があり,柄が長く,葉身は心円形で,浅く3~5裂する。花茎にも2~4枚の葉があるが柄は短い。6~8月,花茎の先に総状花序をつくり,白い花がやや下向きに開く。萼筒は杯状で,萼裂片は5枚,白色,表面に腺毛を密生する。花弁も白色で5枚,針形で,萼裂片より長い。おしべは10本,花外に長くつき出る。子房は上位で2心皮からなり,蒴果(さくか)は2片に裂けて多数の種子を出すが,両片の大きさが異なり,下側の1片は上側のものよりはるかに長い。日本では北海道,本州,四国に分布し,また同一種がなんの形態的分化も起こさずに,遠く台湾,中国,ヒマラヤにまで広がっている。長野県で喘息のことをズダといい,この草が喘息の薬としてよくきくので,〈喘息薬種〉の和名がつけられたという。中国でも同じ用途に使われるが,重要なものではない。
ズダヤクシュ属Tiarellaは,アジアと北アメリカに数種が知られている。北アメリカ東部原産のティアレラ・コルディフォリアT.cordifolia L.(英名foamflower)は樹林地のロックガーデンなどの植込みに利用される。
執筆者:若林 三千男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報