フランスの思想家,小説家。パリの裕福な家庭に生まれるが,フランス革命で破産した父から僧職に就くことを強いられ,スイスに逃れて結婚。だが結婚生活は失敗に終わり,生涯孤独に暮らす。代表作《オーベルマン》(1804)は,薄幸な青年が友人に書き送った書簡体の小説で,作者自身の内的体験を語った自伝的作品である。主人公はアルプスやパリ近郊の自然のなかに暮らし,文学的・哲学的考察を通じて自己を分析し,人間の快楽のむなしさを感じて思い悩む。当時の青年の不安を表白している点ではシャトーブリアンの《ルネ》に近く,世紀病を代表する作品であるが,ルソーはじめ18世紀の思想家の影響を受けた作者は,キリスト教に反対する汎神論的立場からシャトーブリアンの《キリスト教精髄》を批判している。ほかに《人類の根源的性質に関する夢想》(1799),《恋愛論》(1805)等がある。
執筆者:大浜 甫
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フランスの小説家。王政時代の官吏を父としてパリの富裕な家庭に生まれる。父の希望する聖職者の道を嫌って、1789年スイスへ逃れる。以後、青年期の大半をスイスの美しい自然のなかで孤独な放浪者として過ごす。少年時代に早くもルソーの強い影響を受けたが、生来の夢想家の傾向と自然への愛は、スイス生活によっていっそう強められた。同時に、彼の作品の根底には、彼が育った18世紀の百科全書派(アンシクロペデイスト)の思想風土を見逃すことはできない。主要な作品に『人類の根源的性格に関する夢想』(1798)および『オーベルマン』(1804)がある。前者は、近代の極端に細分化された社会生活を捨て、人類初期の単純な牧歌的な生活への回帰を望む考えを述べて、彼がまさにルソーの直系の弟子であることを立証している。後者は自伝的小説であり、美しい自然のなかで語られる孤独と不安の魂の告白は、いわゆる「世紀病」の描写とともに、1830年代のロマン派の世代の先駆となった。ほかに特異な『恋愛論』(1805)がある。晩年の貧困と孤独なパリ生活ののち、パリ近郊サン・クルーに没す。
[山下佳代子]
『竹村猛訳『恋愛論』(1949・酣燈社)』
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…とりわけルソーの書簡体小説《新エロイーズ》や自伝的な作品《告白録》がその代表とされる。恋愛を中心とする自己の感情の起伏や精神的苦悩を主人公に仮託して描く自伝文学は,ロマン主義文学の中でも主要な位置を占め,ゲーテの《若きウェルターの悩み》,シャトーブリアンの《ルネ》(1802),セナンクールの《オーベルマン》(1804),コンスタンの《アドルフ》へと継承され,ミュッセの《世紀児の告白》(1836)へと受け継がれる。この系譜の中からは,激変する社会の現実と自己の存在との乖離(かいり)を感じ,愛に満たされず何かを求め続け現実から逃避していく〈世紀病mal du siècle〉を病んだロマン派的魂の典型が浮かび上がる。…
※「セナンクール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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