アンシクロペディストの訳。ディドロとダランベールの編集した『百科全書』(1751~72、本文17巻、図版11巻)に寄稿し、その刊行に協力した啓蒙(けいもう)思想家たちをいう。最初の寄稿者たちはむしろ無名に近い人々が多かったが、彼らはほぼ四つのグループに大別される。第一はダランベールの関係する科学アカデミーやロンドンの王立協会に属する科学者、数学者たち、第二はディドロの友人でルソー、ドルバック、ジョクールなど、第三はもっとも人数の多い「職人」グループで、靴下製造業者、絹加工業者、時計製造業者、冶金(やきん)業者、ビール醸造業者、出版業者などの専門的技能をもつ商人・企業家層、第四はイボン、ペストレ、プラドなどの聖職者グループである。
1752年初頭、執筆者の1人プラド神父の博士論文が反対派のイエズス会士たちの策動によって、パリ大学神学部で否認宣告を受けたのを機会に、『百科全書』の最初の二巻が発禁処分を受けると、当時の進歩的な知識人や科学者たちはこぞって『百科全書』の陣営に参加し始めた。老大家ボルテールやモンテスキューをはじめ、デュクロ、マルモンテル、モルレ、サン・ランベールらのアカデミー会員、ラ・コンダミーヌ、ケネー、チュルゴー、フォルボネなどである。『百科全書』がイエズス会やヤンセン派(ジャンセニスム)の影響下にあったパリ高等法院の激しい攻撃のなかで、再三の発禁処分にもかかわらず、実に21年間にわたって刊行され完結することができたのは、ディドロ自身のいうように、「各人がばらばらでありながらそれぞれ自分の部門を引き受け、ただ人類への一般的関心と相互的好意の感情によってのみ結ばれた文学者、工芸家の集まり」に支えられていたからである。また国璽尚書(こくじしょうしょ)ダルジアンソン侯爵(こうしゃく)や出版監督局長官マルゼルブなど旧制度の官僚にも、『百科全書』の刊行に協力を惜しまない人々が少なくなかった。他方、反百科全書派の体制派御用文士としては、フレロンやパリソが有名である。『百科全書』刊行の目的は当時の先進的な学問、思想、技術を集大成し普及することにあったが、同様に百科全書派の人々もあらゆる形態の生産的、創造的活動に直接間接に従事するか、あるいは少なくともそれに個人的関心をもつ学者、専門家、企業家であった。彼らの共通の目標は旧制度下の圧政、悪弊、狂信を改めて、より理性的でより自由な社会を実現することであった。しかしあらゆる分野で経済的、知的進歩を実現することと、政治的、社会的秩序の徹底的な転覆を企てることとは別である。彼らの理想は生産的な市民階級が実業の実践によって漸次的に経済的実権を獲得し、そのあとで暴力を用いずに貴族階級にかわって国家の指導にあたることであった。この意味で、百科全書派や啓蒙思想家はフランス革命を希望しなかった、ということができる。しかし彼らがその実践活動によって、19世紀の産業革命の理論的かつ技術的基盤を準備したことは確実である。
[坂井昭宏]
『桑原武夫編『フランス百科全書の研究』(1954・岩波書店)』▽『J・プルースト著、平岡昇・市川慎一訳『百科全書』(1979・岩波書店)』
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…フランスの《百科全書》(1751‐80)の執筆,刊行に参加したフランス啓蒙思想家の集団。百科全書派と訳される。《百科全書》は,フランス大革命前夜の旧制度のもとで,当時の学問と技術との集大成を実現した一大出版事業で,その基本線は革命よりむしろ改革をめざすものであったが,近代的な知識と思考方法によって人々を啓蒙し,権威に対する批判的な態度をひろげた点で,革命を準備するうえに果たした役割は大であったと評価される。…
…この間,宮廷内の反動派,イエズス会,ジャンセニスト,反動的文筆家たちの露骨な策動があったにもかかわらず,最初1000人だった購読者は,最後には4000人にまで膨れあがった。ディドロ,ダランベールを中心に集まった項目執筆者たちは,通常〈百科全書派(アンシクロペディスト)〉と呼ばれている。 本文第1巻の冒頭に収録されたダランベールの〈序論〉によれば,この総合大事典は二つの目的をもっている。…
※「百科全書派」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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