フランスの作家スタンダールのエッセイ。1822年刊。冒頭で恋愛を4種に分類したり、恋の進展に7段階を画したり、のち有名になった「結晶作用」cristallisationという用語を導入するなど、恋愛に関する理論的著作であるかのような印象を与えるが、総体はあまり体系的とはいいがたい。「人間の心の観察家」を天職と心得るスタンダールは、イデオロジー哲学の強い影響のもとに、もちろん恋愛なる情念の分析を志すのだが、しばしばそれ以上に私的体験の告白(多くは自殺した一イタリア青年の手記という体裁をとる)が前面に押し出されてしまう。すなわち、この作品は、ミラノで人妻マチルデ・デンボウスキに恋し、失恋した著者の体験がその直接の源泉であり、極論するなら彼女1人のために書かれた弁明と告白書という性格をもつ。それが本書を理解しにくくしているのも事実だが、反面、スタンダールという作家を理解するためには不可欠の「鍵(かぎ)」ともいうべき作品なのである。
[冨永明夫]
『大岡昇平訳『恋愛論』上下(新潮文庫)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…シャンパーニュ伯夫人マリーの宮廷付司祭を務めたらしい。若い友人にあてた指南書という体裁で,オウィディウスの影響の強い《恋愛論Tractatus amoris》を著す。第1部は恋愛の本質・発生に関する一般論に始まり,各階層の男女による恋愛討議を収める。…
…一方,塩は荒廃,不毛,死の象徴ともされ,聖書には破壊した町に塩をまく話(《士師記》9:45)や,滅びゆくソドムとゴモラの町をふり返ったため塩の柱と化したロトの妻の話(《創世記》19:26)などがある。 なお,スタンダールの《恋愛論》は,塩の比喩が文学において最も印象的に語られたものの一つであろう。ザルツブルク(ドイツ語で〈塩の町〉)の塩坑に投じられた小枝がつける美しい塩の結晶を,恋愛心理(結晶作用cristallisation)と結びつけた個所は,比類のないイメージをわれわれに喚起してやまない。…
…第二の故郷イタリアでの長期滞在,多く不幸な結末に終わる数々の恋愛事件,筆禍によってミラノを追われパリで文壇を放浪した失意の時代を経るうち,評伝,旅行記,美術評論,文芸時評に筆を染めた。なかでは《恋愛論De l’amour》(1822)が有名だが,小説としては《アルマンス》(1827)が処女作である。長い不遇の後,1830年七月革命後の政変で領事職を得たが,この年発表した《赤と黒》が彼の代表作となる。…
※「恋愛論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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