日本大百科全書(ニッポニカ) 「セビーリャの理髪師」の意味・わかりやすい解説
セビーリャの理髪師
せびーりゃのりはつし
Le Barbier de Séville フランス語
ボーマルシェの四幕散文喜劇。1775年作。副題は「無益な用心」。アルマビバ伯爵は良家の娘ロジーヌをひそかに愛している。ところが、彼女にはセビーリャの医者で年老いたバルトロが後見人としてついており、しかも彼女との結婚を言い触らしている。そこで伯爵は、かつての下僕でいまは同じ町で理髪師をしている、小回りが利くフィガロに助けを求める。アルマビバ伯爵はロジーヌに近づくため、初めは士官に、ついで楽士に変装し、彼女と駆け落ちの相談をする。バルトロの留守中、フィガロと伯爵は、バルトロが呼んでいた公証人をまんまとだまし、伯爵とロジーヌの結婚契約書までつくらせてしまう。全編は、モリエールの『女房学校』のように若い娘に恋する年老いた後見人という古典的テーマを軸に展開するが、その魅力はなによりも用心深いバルトロと才気煥発(かんぱつ)のフィガロとの駆け引きにあるといえよう。なお、続編に『フィガロの結婚』がある。
[市川慎一]
オペラ
ボーマルシェの同名の喜劇に基づくオペラ・ブッファ(イタリア語題名Il Barbiere di Siviglia)は二つある。一つはジョバンニ・パイジェッロによる作品(1782年ペテルブルグ初演)で、当時のヨーロッパで大好評であったが、現代では同じイタリアの作曲家ロッシーニの二幕もの(台本チェザーレ・ステルビーニ)が有名である。単独で演奏される機会も多い序曲(『イギリスの女王エリザベス』のものをそのまま転用)をはじめ、フィガロのカバティーナ「私は町のなんでも屋」やロジーナのアリア「今の歌声は」、そして七重唱「石像のように冷たく動かずに」など名曲が多い。全体に軽妙溌剌(はつらつ)とした雰囲気に満ち、歌手の華麗な技巧も披露できる19世紀最高のオペラ・ブッファである。1816年ローマ初演。日本では1921年(大正10)にロシア歌劇団が初演しているが、邦人による初演は43年(昭和18)の藤原歌劇団である。
[三宅幸夫]
『進藤誠一訳『セヴィラの理髪師』(岩波文庫)』▽『小場瀬卓三他訳『マリヴォ/ボーマルシェ名作集』(1970・白水社)』