日本大百科全書(ニッポニカ) 「フィガロの結婚」の意味・わかりやすい解説
フィガロの結婚
ふぃがろのけっこん
Le Mariage de Figaro
フランスの劇作家ボーマルシェの五幕散文喜劇(1784)。副題「狂おしき1日」。前作『セビーリャの理髪師』の後編。ロジーヌと結ばれたアルマビバ伯爵が夫人の侍女シュザンヌを誘惑しようとするのを知ると、彼女との結婚を許されている伯爵の下僕フィガロは窮地に陥る。伯爵はシュザンヌに「初夜権」を行使しようとするし、フィガロは結婚の約束をしたことのある老女マルスリーヌからその履行を迫られる。夫の浮気を断念させようと願う夫人がシュザンヌに変装し待ち合わせ場所に赴くと、伯爵は計略にまんまとひっかかり、苦労のすえ手に入れたのが奥方とわかる一方、マルスリーヌもフィガロの実母だと判明して、芝居は大団円となる。フィガロの知略のうちに貴族の特権行使に反抗する第三身分の姿をみた観客は熱狂し、この劇は連続68回上演という空前の大当りをとった。モーツァルトがこの戯曲をオペラにしたことは名高い。
[市川慎一]
オペラ
オペラは、ダ・ポンテのイタリア語台本により、モーツァルトが1786年に完成、同年ウィーンで初演された。当時のウィーンでは、ヨーゼフ2世の命令により、ボーマルシェの原作を上演することは禁じられていたため、モーツァルトとダ・ポンテはこの戯曲の階級闘争的側面をあまり強調しないよう努めたが、それでも当時この歌劇に反感を抱いた人々は多く、妨害工作もあって初演の際の人気はいまひとつであった。しかし、その後プラハで行われた公演は大成功を収め、以後モーツァルトの代表的傑作として高い人気を保ち続けている。このなかには序曲をはじめ、舞台を離れて単独で演奏される名曲が多く、フィガロの歌う「もう飛ぶまいぞ、この蝶々(ちょうちょう)」や、ケルビーノの「恋とはどんなものかしら」などのアリアがとくに名高い。日本初演は1952年(昭和27)芸術祭合同公演として歌舞伎(かぶき)座で行われている。
[三宅幸夫]
『辰野隆訳『フィガロの結婚』(岩波文庫)』▽『小場瀬卓三他訳『マリヴォ/ボーマルシェ名作集』(1970・白水社)』