その他のパラプロテイン血症の腎障害

内科学 第10版 の解説

その他のパラプロテイン血症の腎障害(全身疾患と腎障害)

 パラプロテインは単クローン性免疫グロブリンを意味し,パラプロテインが血中に存在する病態をパラプロテイン血症(paraproteinemia)とよぶ.パラプロテイン血症を伴う腎障害として,上述のALアミロイドーシスによるアミロイド腎症骨髄腫腎のほかに,以下に示すものがある(表11-6-7).
(1)クリオグロブリン血症性糸球体腎炎(cryoglo­bulinemic glomerulonephritis)
 クリオグロブリンは冷却されるとゲル化し,37℃に再加温すると溶解する蛋白で,その本体はリウマトイド因子を中心とする免疫グロブリンである.クリオグロブリンが血中に出現する病態をクリオグロブリン血症(cryoglobulinemia)とよぶ【⇨14-10-20)-(6)】.免疫グロブリンの組成をもとに3型に分類され,Ⅰ型は単クローン性の免疫グロブリンが重合して沈殿するもので,多発性骨髄腫原発性マクログロブリン血症などにみられる.Ⅱ型は多クローン性IgGとリウマトイド因子活性をもつ単クローン性免疫グロブリン(多くはIgMκ型)からなり,Ⅲ型は多クローン性IgGと多クローン性IgMからなる.Ⅱ型,Ⅲ型は異なる免疫グロブリンから形成されるため混合型クリオグロブリン血症とよび,基礎疾患のない本態性と続発性(Sjögren症候群や全身性エリテマトーデスなどの自己免疫性疾患,リンパ腫,感染症などに伴う)がある.近年,本態性クリオグロブリン血症の多くがC型肝炎ウイルス感染症に関連したものであることが明らかとなった.クリオグロブリン自体による腎障害はⅡ型に多い. 混合型クリオグロブリン血症では,クリオグロブリンが補体を活性化することで,全身の小血管において免疫複合体型の血管炎を引き起こし,発熱,Raynaud現象,紫斑,皮膚潰瘍,多関節痛,多発単神経炎などを生じる.検査ではC4優位の補体低下やCH50の低下がみられる.腎組織は光顕上,膜性増殖性糸球体腎炎に類似した像を呈し,係蹄壁の二重化や糸球体分葉化を認める.また係蹄壁内にクリオグロブリンによる血栓が観察されることもある.蛍光抗体では係蹄壁を中心にIgM,IgG,C3の沈着がみられる. 血管炎症状や腎炎の活動性の強い場合は,副腎皮質ステロイドやシクロホスファミドなどによりクリオグロブリンの産生抑制を行う.急速な腎機能低下がみられる場合は,クリオグロブリンの除去を目的として血漿交換やクリオフィルトレーションを行うこともある.C型肝炎に合併したものでは,抗ウイルス療法を施行する.
(2)単クローン性免疫グロブリン沈着症(monoclonal immunoglobulin deposition disease)
 単クローン性免疫グロブリンやその断片腎臓肝臓,心臓などの全身臓器に沈着することで生じる疾患であり,免疫グロブリンの性状より,軽鎖沈着症,軽鎖重鎖沈着症,重鎖沈着症に分類される.軽鎖沈着症が最も多い.免疫グロブリンは微細顆粒状に沈着し,アミロイドーシスとは異なり線維を形成しない.Congo-red染色は陰性である.軽鎖沈着症では80%がκ鎖である.好発年齢は45歳以上であり,多発性骨髄腫に合併することが多い.糸球体へ沈着すると蛋白尿をきたし,しばしばネフローゼ症候群となる.光顕では糖尿病性腎症に類似の結節性糸球体硬化症の所見がみられる.蛍光抗体法では単クローン性免疫グロブリンの糸球体基底膜への線状沈着と,糸球体内の結節,尿細管基底膜,血管壁への沈着がみられる.電顕では微細顆粒状の電子密度物質が,糸球体基底膜内皮下に帯状に沈着する.多発性骨髄腫に準じた治療を行う.
(3)イムノタクトイド腎症・細線維性糸球体腎炎
 イムノタクトイド腎症(immunotactoid glomerulopathy)と細線維性糸球体腎炎(fibrillary glomerulonephritis)は,Congo-red染色陰性のアミロイド様の線維性構造物の沈着を糸球体に認める疾患である.発生機序は不明であるが,免疫グロブリンやその構成成分などが結晶化し糸球体に沈着するものと考えられている.光顕では膜性増殖性糸球体腎炎類似の組織像を呈する.確定診断には電顕が不可欠であり,イムノタクトイド腎症では32~50 nm幅の微小管状構造物が糸球体基底膜やメサンギウムに沈着し,細線維性糸球体腎炎では18~22 nm幅の線維性構造物が同様の部位に沈着する.イムノタクトイド腎症はリンパ増殖性疾患に伴うことが多く,しばしばパラプロテインが沈着するが,細線維性糸球体腎炎ではパラプロテインはまれである.
(4)原発性マクログロブリン血症(primary macro­globulinemia)
 IgMを分泌する形質細胞の腫瘍性増殖により,モノクロナールIgMからなるパラプロテイン血症をきたす疾患であり,Waldenströmマクログロブリン血症ともよばれる【⇨14-10-20)-(2)】.IgMは5量体構造からなる分子量約100万の巨大な蛋白である.血中の過剰なIgMにより過粘稠症候群をきたし,腎血流,糸球体濾過値の低下を生じたり,係蹄内にIgMによる血栓様沈着を生じたりする.ALアミロイドーシスの原因になることもある.
(5)POEMS症候群(Crow-Fukase症候群)
 多発神経炎,臓器腫大,内分泌障害,M蛋白血症,皮膚症状を特徴とした全身性疾患であり,多発神経炎と形質細胞の腫瘍性増殖を必須とする【⇨14-10-20)-(5)】.血中の血管内皮増殖因子(VEGF)が高値で,本症の病態形成に関与しているものと考えられている.膜性増殖性糸球体腎炎様の腎病変を伴うことがある.パラプロテイン血症を伴うが,腎臓への免疫グロブリンの沈着は認めず,腎障害もVEGFが関与している可能性がある.[廣村桂樹・野島美久]
■文献
原 茂子,他:クリオグロブリン血症.日内会誌,94: 58-66, 2005.
小松田 敦,他:単クローン性免疫グロブリン沈着症.別冊日本臨牀,腎臓症候群(第2版)下,18: 435-438, 2011.
田口 尚:細線維性糸球体腎炎/イムノタクトイド糸球体症. 腎生検病理アトラス (日本腎臓学会・腎病理診断標準化委員会 日本人病理協会編),pp163-167,東京医学社,東京,2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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