改訂新版 世界大百科事典 「ゾシモス」の意味・わかりやすい解説
ゾシモス
Zōsimos
3~4世紀のもっとも有名な初期ギリシア錬金術者。生没年不詳。パノポリス(エジプト)出身。その色や純粋さにおいて天然のものよりすぐれた金や銀をつくる術を駆使できたといわれ,特異な化学的技術者として後世の錬金術者たちから師と仰がれた。多くの金属変成の書が彼に帰せられている。ある操作によって鉛鉱石から銀が流れ出てくることがあるが,実際は鉛から銀が生まれてきたわけではない。しかしこういう場合,彼は,神秘的生命の発想から,金属の誕生が男性的原理と女性的原理の結合によるものだと人間的に解釈した。ゾシモスは,金属変成について種々の実験を重ね,〈神聖な水theion hydōr〉のような一種特有の染料液や,蒸留器,るつぼ等の化学装置,合金類や激しい作用をもつ硫化物もつくり出したといわれる。その著作には,例えば《神聖な業について》という論文にうかがえるように特異な象徴的叙述がみられるが,これは煮えたぎる容器の中での溶液の変成をとおして,人間自身の霊的変成を幻視したものと考えられる。なお,彼を始祖とするギリシア錬金術の伝統は,シリアのシュネシオス(5世紀),テーバイのオリュンピオドロス(6世紀)と継承された。
執筆者:大槻 真一郎
ゾシモス
Zōsimos
古代末期の歴史家。生没年不詳。東ローマ政府で皇帝財庫法務担当官を務め,コメスの称号を得たこと以外,その経歴は不明。500年ころ《ヒストリア・ネア(新しい歴史)》なる歴史書を著し,6巻が伝存している。第1巻は1~3世紀のローマ史を概観し,第2~6巻は305-410年の時期を扱っており,270-404年についてはエウナピオスEunapios,それ以降についてはオリュンピオドロスに依拠している。282-305年に関する叙述は欠落,また第6巻は西ゴートのローマ市侵入直前の時点で唐突に終わっている。彼は異教徒で,ローマ帝国の衰退を伝統的異教祭儀の無視に帰し,コンスタンティヌス1世とテオドシウス1世を厳しく批判するなど,同書は異教側の護教的歴史記述ではあるが,後期ローマ帝国史,特に378-410年については貴重な史料である。
執筆者:後藤 篤子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報