生物の分類群に学名を与えるときに基準となる標本。基準標本ともいう。種とそれ以下の階級の分類群については,特定の標本に記載を加え学名を与えたものをタイプ標本(動物では模式系列)として,任意の標本がそれと同一分類群に属するかどうかの判定によって学名を与える。種よりも大きい分類群には,それより低い階級の分類の一つをタイプと決めて判定する。これをタイプ法type methodといい,命名規約で採用されている手順である。
タイプ標本(模式系列)のうち,公刊された論文で命名者が指定した唯一の標本を正基準標本(動物では完模式標本)holotype,それ以外のものを植物では副基準標本isotype(正基準標本と同一のフィールド・ナンバーを付していることが多い),動物では副模式標本paratypeという。また動物では,副模式標本のうちで完模式標本と性の異なる唯一の標本を,別模式標本allotypeに選ぶことができる。命名者が正基準標本(完模式標本)を特定せずに複数の標本を列記した場合,そのすべてを等価基準標本(動物では総模式標本)syntypesといい,そのうちでのちに一番よく記載に合致するものとして特定され,論文などで公表されたものを選定基準標本(動物では後模式標本)lectotypeという。正基準標本(完模式標本)や選定基準標本(後模式標本)が事故などで失われてしまった場合に,新しく選定されたタイプ標本が新基準標本(動物では新模式標本)neotypeである。タイプ標本の選定の方法については,現行の命名規約にそのためのガイドが含まれていて,それに従って作業を進めることが求められている。
生物の学名はすべてタイプ標本に基づいて定められているのだから,タイプ標本は破損や紛失などの事故にあわぬようにたいせつに保存されることが必要である。また,学名の再検討を要する場合などにはあらためて研究する必要もあるので,研究者がいつでも利用できる状態にしておくことも望まれる。古い学名のうちにはタイプ標本が特定されていないものもまだ多いが,最近,タイプ選定についての共同研究が進められ,分類群ごとや,所蔵されている機関ごとにタイプ標本リストが準備されつつあるのは心強いことである。
学名は国際的なものであり,したがってタイプ標本は国際的に貴重な共有財産である。その保管や研究に際しては,個人的な都合によることは極力排すべきものであろう。
執筆者:岩槻 邦男+上野 俊一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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