改訂新版 世界大百科事典 「タガメ」の意味・わかりやすい解説
タガメ (田亀)
Lethocerus deyrollei
半翅目コオイムシ科の昆虫。池や沼にすむが,水田という恵まれた環境の中で繁栄してきた水生カメムシで,どこの水田にもふつうであったことからこの名がついたのであろう。この類は最大の水生カメムシであるため,アメリカではgiant water bugと呼んでいる(ヨーロッパにはいない)。カエルや魚も一撃で倒し,他の水生昆虫も捕食する。体長50~65mm,体は暗褐色で,やや長い小判形。タイコウチに似たところもあるが,体の幅は広く,長い呼吸管の代りに短い伸縮自在の1対の呼吸弁がある。前脚の腿節(たいせつ)は強大で,前縁に沿う溝に脛節(けいせつ)と跗節(ふせつ)を畳み込んで餌をとらえる。この脚のつめは幼虫期には2本であるが,成虫では1本になり,跗節とともに手かぎ状になっている。中脛節,後脛節,後跗節は扁平になり,長い遊泳毛が列生していて泳ぐ力が強い。成虫は水の深いところで水草の間に尾端を出して,体を斜めにして浮かんでいることが多い。越冬した成虫は初夏,水面から上方に突出したヨシやイネなどの茎や葉のまわりに100個以上の卵を産む。雄成虫は体を水でぬらして卵塊を抱き,その乾燥を防ぐ習性がある。コオイムシの雄が卵塊を背負って保護するのと共通した性質である。本州,四国,九州でふつうに見られたが,現在では絶滅したと思われる地域が広がっている。国外ではロシア極東地区から東インドにかけて広く分布する。
執筆者:宮本 正一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報