マコモ(読み)まこも(その他表記)vegetable wild rice

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マコモ」の意味・わかりやすい解説

マコモ
まこも / 真菰
vegetable wild rice
[学] Zizania latifolia Turcz.

イネ科の多年生水草。ハナガツミともいう。根茎は太く、地中を横にはう。稈(かん)は太く、高さ1~2メートル。葉は長さ40~90センチメートル、葉身と葉鞘(ようしょう)の間で離層ができる。8~10月、稈の先端に、分枝が多く、長さ約50センチメートルになる円錐(えんすい)花序をつける。花序の上方に雌性小穂、下方に雄性小穂をつける。雌性小穂は、広線形で長さ約2センチメートルの長い芒(のぎ)がある。雄性小穂は長さ約1センチメートルで芒はなく、赤紫色を帯びる。包穎(ほうえい)は退化し、雄しべは6本。沼沢地に群生し、北海道から沖縄、および中国、インドシナ、シベリアに分布する。水際の稈がマコモ黒穂病菌に刺激されて肥大し、マコモタケ(菰筍)をつくる。マコモタケは長さ約30センチメートル、径約3センチメートルになり、内部は白く充実し、ところどころに黒い胞子の粒がみられる。北アメリカのマコモの一種アメリカマコモの穎果はワイルドライスwild riceと称し、北米先住民族が食用にする。

[許 建 昌]

文化史

マコモの種子は米に先だつ在来の穀粒で、縄文中期の遺跡である千葉県高根木戸貝塚や海老が作り貝塚の、食糧を蓄えたとみられる小竪穴(たてあな)や土器の中から種子が検出されている。江戸時代にも一部では食糧にされていた。『殖産略説』に、美濃国(みののくに)多芸(たぎ)郡有尾村の戸長による菰米飯炊方(こもまいめしのたきかた)、菰米団子製法などの「菰米取調書」の記録がある。

 中国ではマコモの種子を菰米とよび、古くは『周礼(しゅらい)』(春秋時代)のなかに供御五飯の一つとして記載がある。また『斉民要術(せいみんようじゅつ)』(6世紀)には菰飯の作り方の記述がある。マコモの子実は彫胡(ちょうこ)ともよばれ、唐の杜甫(とほ)は「滑憶彫胡香聞錦帯羹」と歌った。台湾には秋来菰米(秋がきたらマコモ飯を食べる、という意味)の風習が近年まであった。

 マコモタケは『斉民要術』に取り上げられており、明(みん)代には野菜として栽培が広がった。また、『万葉集』にはマコモを詠み込んだ歌が22首載り、まこも刈りやその舟を詠んだ歌もある。葉の利用も古くは重要で葉は、莚(むしろ)、薦(こも)や畳に編まれ、菰枕(こもまくら)、雪国の菰靴(こもぐつ)、ちまきに使われた。

 江戸時代、所によっては真菰高(まこもだか)と称する税の対象にされた。

 マコモタケの黒い胞子はまこも墨とよばれ、鎌倉彫の古色づけとして明治初年以来利用されている。

[湯浅浩史]


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改訂新版 世界大百科事典 「マコモ」の意味・わかりやすい解説

マコモ (菰)
Manchurian wildrice
Zizania latifolia (Griseb.) Stapf

池沼や河川のへりに群生している大型のイネ科の多年草。太く横にはった地下茎があり,葉と茎を叢生(そうせい)する。茎は太い円柱形で中空,高さは1~3mになる。葉は幅広い線形で,長さは40cmから1mに達し,幅は2~3cm,葉鞘(ようしよう)はややスポンジ質である。8月から10月初めに大型でまばらな円錐花序が出る。花序の長さは50cm余りで,多数の枝を分かって,やや密に無数の小穂をつける。小穂は単性で,雌雄ともに苞穎(ほうえい)がなく,1個の小花のみとなる。雄性の小穂は花序の下部につき,長さ1cmくらい,淡紫色で,先はとがるか短い芒(のぎ)となり,小花には6本のおしべがある。雌の小穂は花序の上部につき,淡黄緑色で,長さ2cmくらいの長楕円形,先に長さ2~3cmの芒がある。果実は円柱形で,長さは1cmくらい,褐色を帯びる。東アジアの冷帯と温帯に分布し,東シベリアから日本全土,中国に見られる。

 マコモの茎の先つまり菰角に黒穂病菌の1種のUstilago esculenta P.Henningsが寄生すると,茎がたけのこを小さくしたような形に太って軟化し,花が出ない。これがまこも竹で,漢名で茭白筍(こうはくじゆん)といい,台湾や中国大陸南部ではこれが栽培される。料理で珍重され,缶詰や冷凍にして輸出もされる。この菰角に黒穂菌の胞子ができると,黒い粉が豊富に出るが,これを絵具にしたり,油脂に混ぜて化粧の眉引きに使ったりしたこともある。また葉や茎で盂蘭盆(うらぼん)の時の祭壇に敷くござを編んだりした。マコモの根と果実は中国で薬用とされ,心臓病や利尿の効があるという。

 マコモ属Zizaniaは世界中に4種しかなく,このうちの1種マコモが東アジアに,残りの3種は北アメリカ東部に分布している。北アメリカでは古くからインディアンの食糧であり,現在でも感謝祭やクリスマスの七面鳥の詰物に入れたり,スープに入れたりするワイルドライスwildrice(Indian rice)は野生のイネではなく,北アメリカ産の一年生のアメリカマコモZ.aquatica L.やZ.palustris L.の果実で五大湖地方を中心とするアメリカ中西部や近接のカナダでとれる。穀粒が脱粒しやすいので,自生地では舟でこぎ出して,果実を手で払い落として採集する。生のものは緑っぽいが,乾くと風味がよくなる。アジアのマコモの果実(菰米)も十分食用にしうるが,中国で救荒用に用いられたにすぎない。
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百科事典マイペディア 「マコモ」の意味・わかりやすい解説

マコモ

東南アジアや日本の湖畔,浅い沼地の中に野生するイネ科の多年草。草丈1〜3m。秋に穂をつけ,長さ1.5cmの細い種子を無数に産する。茎頂にマコモ黒穂菌が寄生すると,伸長が阻害され,根ぎわでたけのこ(筍)のように太く肥大する。これをマコモタケ(【そん】筍)という。内部は純白で皮をむいて輪切りにし,油いためなど中国料理にする。日本のものには菌を接種してもマコモタケができないものが多い。根と種子は漢方薬として消化不良,止渇,心臓病,利尿の処方に用いられる。
→関連項目蕪栗沼ワイルドライス

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マコモ」の意味・わかりやすい解説

マコモ(真菰)
マコモ
Zizania latifolia; water rice

イネ科の多年草。日本全土,東アジアに分布する。川や池の縁,溝などに生える大型の水草で,群落をつくる。茎は高さ1~2mで太い。葉は長く,大きく,緑色で白粉を帯びる。雌雄同株で,8~10月頃に大型のまばらな円錐花序を頂生し,上部の小穂は雌性で,線状披針形,淡黄緑色の1雌花だけから成り長い芒 (のぎ) がある。下部の小穂は雄性で披針形,淡紫色を帯び,おしべ6本がある。マコモ黒穂菌の寄生により,たけのこのように肥大した茎を生じ,軟化するので中国ではこれをアスパラガスのように食用にする。日本ではこの黒い胞子をまこも墨といって眉墨とし,顔料のセピアの代用にも使う。なお北アメリカ産の近縁種はワイルドライスと呼んで一部で実を食用とした。

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世界大百科事典(旧版)内のマコモの言及

【こも(薦)】より

…マコモや藁(わら)を編んだもので,敷物や被覆材として用いる。古くはマコモで織ったがスゲやチガヤ,イ(藺),ガマ(蒲),竹なども用い,現在は藁が一般的である。…

【湿原】より

… 沼沢湿原は,湖沼の岸や河川の排水の悪い氾濫(はんらん)原などにみられ,栄養物質に富んだ水に涵養(かんよう)され,泥炭は集積しない。ヨシ原に代表されるが,オギはヨシよりも浅いところに,マコモ,ヒメガマは深いところに出現する傾向がみられ,沼沢植物の分布は水深と関係する。 泥炭湿原は,植物遺体の分解量が生産量を下回るためヨシ,スゲ類,ミズゴケ類などの植物遺体が集積し泥炭化するところに形成されるので,寒冷な亜寒帯・冷温帯に多い。…

※「マコモ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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