タイコウチ(その他表記)Laccotrephes japonensis

改訂新版 世界大百科事典 「タイコウチ」の意味・わかりやすい解説

タイコウチ
Laccotrephes japonensis

半翅目タイコウチ科の昆虫。餌をとらえようとするとき,のばした左右の前脚を打ち振るようす,また水から取り出してしばらくたって,前脚を交互に動かすようすが太鼓を打つ動作に似ているところからこの名がついたのであろう。英名は捕獲用の前脚と,長い尾状の付属物をサソリの大きな左右のはさみと,細長い後腹部に見たてて同科のミズカマキリとともにwater scorpionと呼ばれる。水辺にすみオタマジャクシ稚魚,昆虫その他の小動物などを捕食する。タガメに次ぐ大きな水生カメムシで,体は暗褐色ないし黒褐色で,長い葉状,体長35mm内外,腹端に体長と同じくらいの長さの1対の糸状突起がついており,いっしょになって呼吸管となる。前脚は鎌状で捕獲用となり,中・後脚は細長く遊泳用となる。池沼の浅いところで呼吸管を水面上に出して静止していることが多いが,体に泥がついているので見つけにくい。越冬した成虫は早春水辺に現れ,4,5月に産卵する。卵は短いバナナ形で,一端に6~8本の長い呼吸突起を輪生する。この突起に薄い空気層があって,この部分で水中の酸素が取り入れられ,胚に送られる。本州から台湾北部にかけて広く分布し,朝鮮半島中国でも見られる。水生カメムシの中では比較的汚濁抵抗性があるが,最近見られなくなった地域が出てきている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「タイコウチ」の意味・わかりやすい解説

タイコウチ
たいこうち / 太鼓打虫
water scorpion

昆虫綱半翅(はんし)目異翅亜目タイコウチ科Nepidaeに属する昆虫の総称、またはそのなかの1種。水生カメムシの仲間で、体は平たい長卵形(タイコウチ類)あるいは棒状(ミズカマキリ類)。口吻(こうふん)は針状で短く、触角もきわめて小さい。腹端には、尾状突起が伸びた長い呼吸管をもつ。呼吸管は伸縮せず、この点でコオイムシ科と異なる。前脚は鎌(かま)状で捕獲脚となり、中脚と後脚は細長く、遊泳脚となる。熱帯地方を中心に世界で約200種が知られ、日本産6種。

 和名タイコウチLaccotrephes japonensisは、体長35~40ミリメートル、体は扁平(へんぺい)で長形。呼吸管は長く、体長とほぼ等長。体全体が暗褐色で、普通、表面に泥をつけている。本州から台湾にかけて分布し、池沼の水際などの浅い水中にすむ。底の泥上に静止し、近づく小魚やオタマジャクシなどを捕食する。手で捕まえて水から出すと擬死を装う。縮めた前脚を交互に、太鼓を打つように動かすので、この名がある。近縁種には愛知県から兵庫県にかけて分布するヒメタイコウチNepa hoffmanniがあり、タイコウチより小形で丸みがあり、体長約20ミリメートル。呼吸管は非常に短く、体長の約8分の1。湿地のコケ間や落葉下にすむ。

[林 正美]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タイコウチ」の意味・わかりやすい解説

タイコウチ
Laccotrephes japonensis

半翅目異翅亜目タイコウチ科。体長 30~38mm。体は扁平で細長く,腹端に体長とほぼ等長の呼吸管がある。全体に暗褐色で光沢がない。頭部は非常に小さく,口吻は短い。前肢は強大な捕獲肢になり,腿節基部に1突起がある。池沼の水底にすむ水生昆虫で肉食性。本州,四国,九州,南西諸島,台湾,朝鮮,中国,インドなどに分布する。タイコウチ科 Nepidaeにはタイコウチ亜科 Nepinaeとミズカマキリ亜科 Ranatrinaeがあり,日本には7種が知られる。 (→異翅類 , 半翅類 )

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小学館の図鑑NEO[新版]昆虫 「タイコウチ」の解説

タイコウチ
学名:Laccotrephes japonensis

種名 / タイコウチ
解説 / 池やぬま、水田の浅い所にすみ、呼吸管の先を水面に出しています。ほかの水生昆虫やオタマジャクシなどをとらえます。5~6月に水辺のしめったどろの中などに産卵します。成虫で越冬します。
目名科名 / カメムシ目|タイコウチ科
体の大きさ / 30~38mm(呼吸管をのぞく)
分布 / 本州、四国、九州、南西諸島

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百科事典マイペディア 「タイコウチ」の意味・わかりやすい解説

タイコウチ

半翅(はんし)目タイコウチ科の水生昆虫の1種。体長35mm内外,黒褐色,扁平。北海道を除く日本各地,台湾に分布し,池沼,水田などにすむ。腹端に長く呼吸管をもつ。他の昆虫,オタマジャクシ,小魚などを捕食。夜間灯火に飛来することもある。

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