翻訳|direct mail
広告主が選んだリストに基づいて特定の個人あてに直接メッセージを伝達すること。宛名(あてな)広告、直接郵送広告、通信広告、DM広告ともいわれるが、正しくはダイレクト・メール・アドバタイジング。
この広告方式は、全国的規模にわたる郵便制度の発達と、正確に選び出された顧客リストの管理が前提となって初めてできるものである。通信販売の盛んなアメリカでは、郵便法が制定された1775年にこの方式が実施され、現在に至っている。DMの古典的な例としては「ナタリーの手紙」がある。これは第一次世界大戦後、アメリカの映画会社が映画館主に行った試みで大成功を収めたものである。まずナタリーという未知の女性名義で第1回のDMを発送し、顧客の期待感を誘い、2回目の手紙でひそかに封切映画を知らせ、その知名度アップをねらったものである。日本の江戸時代の戯作者(げさくしゃ)による引札(ひきふだ)(ちらし)の多くは、書簡文形式で始まり、余白に相手の名前を記しているので、内容的にはむしろDMに近い。しかし、今日のように盛んになったのは大正中期以降、デパートが競争のため、小市民の優越意識をくすぐる絶好の媒体として利用したことに端を発する。日本でDMという広告用語が登場したのは1961年(昭和36)である。
DMを効果的な手法にするためには、いかに潜在的な顧客を特定するか、換言すれば、適切な名簿の入手、更新、管理がとくに必要である。日本では、日本語自体がデータ入力や管理の障害となってデータベース的な見込み客リストの整備が遅れている。さらに、国内の郵便法では広告郵便物の大口利用者に対する割引制度がいまだに不十分である。アメリカのDM理論が日本で通用しないのは、おもにこの2点の理由による。
DMの特徴は、(1)対象を地域や性別、年齢、職業、地位、所得、趣味などの種々の特性区分に従って特定個人に絞れる、(2)親近感あるいはとくに指定されたという優越感など、受け手に特別の感情をおこさせる、(3)郵便法規による制約はあるが、サイズ、形状、内容など表現や使用材料の制約が少ない、(4)商品見本や贈答用品の封入ができる、などである。DMは現在でもダイレクト・マーケティングの中枢的な位置を占めている。しかし、インタラクティブ性(双方向性)を利用して消費者の反応を的確にとらえることができるインターネット広告が盛んになると、その位置づけがゆらぐことになる可能性がある。
[島守光雄]
『安藤貞之著『ダイレクトメール』(1975・ダヴィッド社)』▽『増田太次郎著『DM(ダイレクト・メール)戦略』(1975・同文舘出版)』▽『梅宮和男著『ダイレクト・メール必勝マニュアル』(1993・PHP研究所)』
直接郵送広告と訳され,あて名広告ともいうが,〈DM〉という使い方が一般的である。企業が選んだ見込客に商品やサービスの内容を郵送物で伝え,販売促進をねらうが,選挙や公共キャンペーンでも重要な手段となる。1864年,パリに世界最初のDM専門会社が出現したとされるが,DM時代が開けたのは72年,アメリカでモンゴメリー・ウォード会社が通信販売mail orderを始めてからであり,これは後にカタログによる販売へ発展した。日本では江戸時代後半,戯作者が宣伝文を書いた引札(ひきふだ)は,その多くが書簡文形式をとり,相手の名前を記す余白を残しているところや文面からも,あて名広告の一種であったといえよう。また大正中期,三越が商店との競争のために桃の初節句にあわせて出したあて名広告は,顧客の選良意識をくすぐるタイプの近代DMのはしりといえる。ただし〈ダイレクト・メール〉あるいは〈DM〉という用語は,1955年ころから使われ始めた。現代では消費者の価値観の多様化に伴う製品の多品種化のなかで,DMはセールス・プロモーション(SP)やマーケティングの一環として,的確に顧客を選択し,通信販売の手段としては直接の購入申込率を高めるくふうがこらされている。また,日本の普通郵便物のなかに占めるDMの割合は20%にも達し,アメリカと並んで世界でもDM広告の多い国となっている。
執筆者:島守 光雄+小倉 重男
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