販売業者が郵便,電話,コンピューターネットワークその他の通信方法で直接顧客から売買契約の申込みを受け,郵送,宅配その他の方法で注文の商品を引き渡す販売方法をいう。顧客は,カタログ,新聞・雑誌の広告,ダイレクト・メール,ちらし,テレビ・ラジオのコマーシャル,インターネットなどを見聞きすることによって,商品を選択し注文する。通信販売は19世紀の末にアメリカの地方都市や農村など,人口が希薄で店舗の未発達な地帯を対象として発達してきた小売業であり,なかでも1886年に創業されたシアーズ・ローバック社のカタログ販売は有名である。シアーズのカタログといえば,分厚い電話帳をすぐに思い出すほど多くの商品情報が掲載されており,消費者は手近な所で入手できない商品をいつでも購入できる利点があった。しかし1930年代に入ると,カタログ販売は自動車の普及によるチェーン・ストアの展開にとって代わられるようになった。日本では総合的な商品を取り扱う通信販売は発達せず,もっぱら宝石,毛皮,美術工芸品など,ふだん手に入れにくい特定の商品に限定された通信販売が主流であった。しかし72年の小売業の資本自由化を契機として,73年にはシアーズ・ローバック社と西武流通グループとの提携が行われるに及んで,日本でも通信販売における新しい展開が始まった。
通信販売の利点は,(1)店舗設備や店員の人件費など営業諸経費を節約することができ,(2)マスコミによる宣伝活動によって広範な市場を獲得できること,(3)代金が郵便為替による現金前払いやクレジット・カードによって確実に回収できること,などにある。また欠点としては,(1)宣伝広告費,カタログの作成と送付など商品情報を提供するための経費がかさむこと,(2)顧客が商品の実物を見ていないために返品や取替えが高率になりがちなこと,商品の品ぞろえや価格を市場の変化に対応して迅速に変更しにくいこと,などが挙げられる。とくに通信販売の成否は業者の社会的信用によるところが大きく,取扱商品のブランドや品質には細心の注意が払われなければならない。消費者サイドからみると,通信販売は家庭にいながらにして希望する商品を購入できるというホーム・ショッピングの利点が最も大きい。とくに消費者の生活時間帯の多様化と有職主婦の増加とも相まって,ホーム・ショッピングの便宜性が重視されてきている。このとき消費者にとって最も必要とされるのは,より広範なきめ細かい商品情報である。INS(高度情報通信システム),VAN(付加価値通信網),キャプテン・システム,ケーブルテレビ,インターネットなどニューメディアの発達は,新しい販売方法として通信販売ばかりでなく,流通業界全体に一大転機をもたらしている。商品情報は販売業者から一方的に流されているのではなく,消費者が家庭から必要とする情報を検索し,発注することができ,また代金の支払もクレジット・カードによって金融機関から自動的に引き落とされる。
また,90年代後半に急展開したインターネット上のホームページを利用した通信販売は,商品の選択から国境を取り除き,世界の市場を一つにする可能性を示している。とくにアパレル商品,スポーツ用品,書籍・CD,チケット販売その他のマニアックな商品の分野では,インターネットによる通信販売は国境を越えて強力な販売手段となってきている。また,ホームページ上にバーチャル・リアリティー(仮想現実)の方法で構築されたショッピング・モールの実験も行われており,まだ実験的段階にある電子マネーによる代金決済システムの今後の発展しだいによっては,通信販売のあり方もさらに大きな変貌を遂げるものと思われる。
→無店舗販売
執筆者:川嶋 行彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
通信で注文を受け、郵便や宅配便でその注文商品を引き渡す販売方法。最大の特色は、配布または特定場所に備え付けたカタログ、雑誌・新聞等の広告によって商品が選択され、顧客はまったく商品実物を見ないで注文するところにある。そのため、カタログや広告の説明の適否が、通信販売の成否を左右する。通信販売は、広大な国土、発達した郵便制度、標準化した生産と消費という条件をもつアメリカで生まれた。取扱い商品は、腐敗性の食料品以外はなんでも可能であるが、カタログによる説明に頼るため、標準化の可能な銘柄商品が中心になる。通信販売業者には、多方面の商品を扱う総合店と、運動具・書籍等の特定品だけを扱う専門店とがあるが、アメリカでは総合店が、日本では専門店が多い。通信販売の利点は、業者からみれば、低廉な店舗費、メーカーからの直接大量仕入れなど、顧客からみれば、遠隔地での広範な選択、買い物の時間とコストの節減などにある。しかし反面、カタログや広告内容と実物の相違による高い返品率、信用の制約、カタログ作成や配送のコストが大きいなどの欠点がある。アメリカでは、交通の発達が通信販売の必要性を低下させ、通信販売業者が店舗販売業者に比重を置き換えた例がある(シアーズ・ローバック)。日本ではもともとアメリカ的条件はないが、階層別、職種別、所得別など、特定層をねらったダイレクト・メールによるものが増えている。さらにはインターネットの普及に伴ってインターネット通信販売も盛んに行われるようになっている。なお、通信販売によるトラブルに対処するために、特定商取引法(昭和51年法律第57号)が種々の規制を設けている。
[森本三男]
『丸山正博著『インターネット通信販売と消費者政策――流通チャネル特性と企業活動』(2007・弘文堂)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…訪問販売,通信販売,電話勧誘販売,および連鎖販売について規整する法律。略称,訪問販売法。…
…商品を常設の店舗で販売せず,それ以外の方法で商品を販売する小売業の総称。カタログ,ダイレクト・メール,テレビや新聞の広告などを利用して,電話や郵便で顧客からの注文を受ける通信販売,セールスマンが商品あるいはサンプル,パンフレットを携帯して戸別に家庭を訪問し,商品を販売する訪問販売,小型トラックやワゴンタイプの車に商品を積み,広場や街角で販売する移動販売,ホテルや公の施設を利用し,不定期に商品を陳列して販売する展示会販売,在庫一掃や行事などとからめ,広い場所を借りてバーゲンセールを行う催事販売,一般家庭に知人や友人を集めて行われる実演販売や紹介販売,人の集まる所に置かれて定期的に商品の供給と代金の回収が行われる自動販売機による販売など,すべて無店舗販売である。生活協同組合や農業協同組合の組合員がグループでまとめて商品を購入する購買事業活動も,実質的に無店舗販売のうちに入れられよう。…
※「通信販売」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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