キク科(APG分類:キク科)の春植え球根草。天竺(てんじく)(インド)から伝えられたボタンの意味から、和名をテンジクボタン(天竺牡丹)という。メキシコおよび南アメリカの山地の原産。地下に大きい塊根があり、肥大部には芽はなく、塊根が茎に付着している基部から新芽を出す。茎は太く空洞で高さ0.3~1.5メートルとなり、各節から葉が対生する。葉は羽状に裂け、表面は濃緑色で裏面はやや白みを帯びる。夏から秋、分枝の先に径3~30センチメートルの頭花を開く。切り花用、花壇用とし、多くの品種があり、高性種から矮性(わいせい)種まである。
[吉次千敏 2022年3月23日]
現在の園芸種は遺伝的に複雑で、花形、花色が豊富である。また花の大きさは小輪から巨大輪まであるが、花形によって、大まかに次の11系統に分類されている。
(1)デコラティブ咲き 八重咲きで舌状花は規則正しく配列して一般に広く、弁先は鈍くとがる。品種は榛原(はいばら)の里(紫紅色)、祝盃(しゅくはい)(赤色で弁先が白色)など。花径6~10センチメートル。
(2)カクタス咲き 八重咲きで舌状花の大部分の縁(へり)は外巻きになり、弁先は細い。品種は如月(黄色)、結晶(白色)など。花径7~10センチメートル。
(3)アネモネ咲き 外側の舌状花が中央の管状花を取り囲み丁字型となる。品種はコメット(紅色に弁先は黄色)、朝日丁字(白色に緋(ひ)赤色の覆輪)など。花径5~7センチメートル。
(4)コラレット咲き 舌状花のおのおのに1~3枚のカラがある。品種は笑顔(桃色)、雪の窓(白色)など。花径6~8センチメートル。
(5)フリル咲き 弁先が割れて裂弁となり、房状に咲く。品種はムレタ(輝赤色)、フェノメノン(桃紅色)など。花径5~7センチメートル。
(6)ポンポン咲き 舌状花が管状で短く、ほとんど球状となる。品種は紅玉(濃紅色)、黄玉(黄色)など。花径3~5センチメートル。
(7)ショー咲き ポンポン咲きの中・大輪のもの。品種はシャーロット(橙(だいだい)色)、小桜(桃色)など。花径5~6センチメートル。
(8)シングル咲き 広く平滑な舌状花で、重なり合わず、弁先が離れるものや、2~3列の舌状花をもち中心部が管状花のみからなるものがある。花径5~7センチメートル。
(9)巨大輪咲き 花径15~30センチメートルの巨大輪で、花弁はデコラティブ型やカクタス型である。品種は銀盤(白色)、王冠(純黄色)など。
ほかに(10)ピオニー咲き、(11)オーキッド咲きなどがあるが、品種は少ない。
[吉次千敏 2022年3月23日]
塊根が茎に付着する場所から新芽が出るので、かならず親茎を分割し、芽のあることを確認してから株分けをする。園芸店で購入する場合も確実に芽のあるものを入手する。これを3月下旬~4月中旬にフレーム内に伏せ込み、降霜がなくなってから、芽が出始めたものを花壇または畑に定植する。大輪種で80センチメートル、中輪種で60センチメートル、小輪種で50センチメートル間隔に1球ずつ植える。長期間花をつけるので、肥料切れしないように、元肥として油かす、乾燥牛糞(ぎゅうふん)、腐葉土、有機化成肥料、草木灰などをよく混ぜ十分施す。茎が約15センチメートルくらいに伸びたころ、支柱を立て倒伏を防ぐ。6月上・中旬に一番花が咲き、その後わき芽が伸びて二番花が咲く。7月下旬には高温のため一時花が咲かなくなるので、枝を切り戻し、株の周囲に追肥を施すと、ふたたび9月中旬から晩秋まで咲き続ける。霜で茎葉が枯れ始めたら塊根を掘り上げ暖かい場所に貯蔵する。近年は実生(みしょう)の品種もあり、3~4月にフレーム内に播種(はしゅ)し、5月下旬に花壇に植える。
[吉次千敏 2022年3月23日]
アステカ人がスペイン人の到達以前から栽培していたといわれるが、最初の正確な記述は、スペインの博物学者フランシスコ・エルナンデスFrancisco Hernandez(1515―1578)がメキシコ調査中にまとめ、死後出版された『新スペイン動植鉱物誌』(1651)である。ヨーロッパには1789年、スペインの植物学者ビセンテ・セルバンテスVicente Cervantes(1759?―1829)が、マドリードの宮廷植物園のホセ・カバニレスAntonio José Cavanilles(1745―1804)に種子を送り、カバニレスによってスウェーデンの植物学者アンドレアス・ダールAndreas Dahlを記念して、ダリアの名が与えられた。19世紀の初頭にダリアの栽培と品種改良がヨーロッパ各国で相次いで始まり、ナポレオンの皇后ジョゼフィーヌも一時は熱中し、社交界の話題となった。1830年には品種が1000を超え、1955年には3万を数えるに至った。日本には天保(てんぽう)年間(1830~1844)ごろに渡来し、天竺牡丹(てんじくぼたん)の名で、幕末、江戸など一部でもてはやされた。
[湯浅浩史 2022年3月23日]
キク科の不耐寒性多年草で,花壇,切花,鉢植えと広範囲に使われる代表的な球根草花。草丈は30cmから2mくらい,地下にサツマイモに似た塊根をもつ。塊根が茎に付着する部分からのみ発芽し,多肉質の肥大部分には芽をもたない。葉は緑色,まれに紫褐色をおび,対生ときに3輪生となり,羽状複葉で葉縁に鋸歯をもつ。茎は有節で内部は空洞。花はキクと同じように花弁と呼ばれる舌状花とおしべ・めしべを備えた管状花が多数集まった頭状花で,主茎と側枝の先に初夏から秋末まで断続的に開花する。
16世紀にはすでに,原産地のメキシコでアステカ族によりおもに薬草として栽培され,ココクソチトルCocoxochitlまたはアココトリスAcocotlisの名で呼ばれていた。ヨーロッパには1789年にマドリードの王室植物園長A.J.カバニレスのもとにメキシコから最初の種子が送られ,翌年この種子から得られた半八重の花にpinnataの種名がつけられた。この種は現代の園芸品種の最も重要な祖先となった。91年,植物学者ダールAnders Dahl(1751-89)の業績をたたえて,この植物はダリアと命名された。以来,2世紀にわたって改良育種がくり返された結果,細い茎で数枚の花弁からなる貧弱な小花にすぎなかった原種が今日の代表的園芸品種,エドナCでは400枚をこす花弁を,エモリー・ポールではステッキのような花茎に径40cmもの巨大花を咲かせるまでの進化発達をとげた。ダリア属の野生種の多くは,染色体数2n=32の同質四倍体であるが,異なった系統の交雑と染色体数の増加により,現在の園芸品種は2n=64の異質八倍体となっていて,このことが今日の多種多様な花型,色彩,大きさをもつ無数の園芸品種をうみ出す原因となっている。花型は16以上にも分類されるが,一般に多く見られるのはデコラティブ,カクタス,ポンポン,シングル,コラレット,アネモネ,オーキッドなどの型である。第2次大戦後,とくに発達をみたのはフリルドと呼ばれるタイプで,これは花弁の先が深裂してレース状になったものである。ダリアの日本への渡来は1842年ころで,当時は天竺牡丹(てんじくぼたん)と呼ばれた。冷涼な気候を好むが適応性は広い。春に植え,生育中は上部から出る側芽の摘除と病虫害予防に心がける。秋末に地下の塊根を掘り上げ,5℃程度で貯蔵する。繁殖は主に分球と挿芽による。
執筆者:小西 勇作
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