翻訳|Czech
チェコ(ボヘミアとモラビア)で話され,話し手の数は約1000万人。スラブ語派に属し,スロバキア語やポーランド語などとその西のグループを形成するが,とりわけスロバキア語とは近い関係にあり,この両言語間ではほぼ完全に理解し合える。文字はローマ字(ラテン文字)を用い,1音1文字の原則をよく守っている。ローマ字にない音にはč,š,žなどのように補助記号を用い,二つの文字を組み合わせて一つの音を示すことは(ch[x]を除いて)していない。この原則はチェコ中世の学者・宗教改革家J.フスの改革によっている。
チェコ語はa,e,i,o,uの五つの母音をもち,これには対応の五つの長母音がある。長い母音は文字の上に ´をつけて示され(なおuにはúのほか,ůも用いられる),母音の長短は意味の区別に関与する(pás〈帯〉,pas〈パスポート〉)。子音は全部で25あり,řで示される音[ ]は他の言語にあまりない。この音は[r]を発音しながら摩擦による騒音を加えた音でDvořák〈ドボジャーク〉(ドボルジャーク)に出てくる音である。子音のうちrとlは音節を形成することもできる(vlk〈狼〉,trn〈とげ〉)。アクセントは常に第1音節にあり強弱アクセントである。文法の中では名詞の格変化がとりわけ複雑で,古いスラブ語の曲用変化を踏襲しており,インド・ヨーロッパ語族の中でも保守的な言語といえる。動詞は名詞ほどではないにせよ,やはり変化し,全体としてこの言語のタイプは屈折的(屈折語)である。語彙はスラブ語に共通のものが多く,新造語では国際的な語彙といわれるギリシア語・ラテン語を基礎とする語彙(televize〈テレビ〉)のほかは,チェコ語の要素を組み合わせた合成語が多い(dálnopis〈テレックス〉)。チェコ語から日本語に入った語ではrobot〈ロボット〉が有名であり,チェコ語へはbonsai〈盆栽〉,džudo,judo〈柔道〉などがある。
方言は西のボヘミア方言と東のモラビア方言に二大別され,チェコ標準語は中部ボヘミア方言を基礎にしている。しかし,標準語の口語形ともいえる口語チェコ語が力を得てきて,方言の上に立つ勢力となっており,方言と標準語の中間に立つという注目に値する現象がある。チェコ語は豊富な表現力を備えた言語で,詩がこの国でよく発達しているのはチェコ語のこの性質に大きく関係していると考えられる。
執筆者:千野 栄一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…スラブ語派の西のグループに属する言語で,スロバキア共和国で430万の人によって使われ,ほかにチェコ共和国内に34万,アメリカ合衆国に50万,ハンガリーに11万などの話し手がいる。スロバキア語は長い間チェコ語とは違う環境にあったにもかかわらずチェコ語と近く,たとえ差異があってもよく対応するし,統語論はほとんど同じなので,二つの言語の話し手はお互いによく通じ合うことができる。スロバキア語の特徴に〈リズムの法則〉があり,チェコ語のように長い母音が二つ続いて立つことはできない。…
※「チェコ語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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