日本大百科全書(ニッポニカ) 「チスイコウモリ」の意味・わかりやすい解説
チスイコウモリ
ちすいこうもり / 血吸蝙蝠
vampire bat
広義には哺乳(ほにゅう)綱翼手目チスイコウモリ科に属する動物の総称で、狭義にはそのうちの1種をさす。キュウケツコウモリまたはバンパイアともよばれ、血液食で知られる。この科Desmodontidaeの仲間は、新世界に固有で3属3種があり、アメリカ合衆国南部からアルゼンチンまで分布する。前腕長50~70ミリメートル、頭胴長70~90ミリメートル、体重30グラム前後。乾燥地または湿地帯の洞窟(どうくつ)、廃坑、ときに樹洞に生息する。体のつくりは血液食に適応していて、尾はなく、尾膜は狭く、前肢の親指が異常に長い。100頭、多いときには200頭ほどの雌雄混合の群れをつくる。日没後まもなくねぐらを離れ、生きているウシ、ウマ、ニワトリなど恒温動物の皮膚に鋭い門歯と犬歯で血が滴るまで切り込みを入れ、出てきた血を長い舌でなめ取る。血を吸うのではない。運動している獲物を追跡することはなく、地上約1メートルの低空を飛び、眠っている動物のそばに静かに降りる。周波数の高い超音波を出して虫や魚を食べるコウモリに比べ、ずっと低い周波数の超音波しか発しない。普通1産1子であるが、まれに2子のことがある。
狭義のチスイコウモリとよばれる種はナミチスイコウモリDesmodos rotundusで、メキシコ北部からアルゼンチンまで分布する。親指が長く、臼歯(きゅうし)を欠き、歯が20本しかない。飼育下で19年6か月生きた記録がある。狂犬病を媒介し、それにより家畜が死亡するので、アメリカ合衆国では問題になっている。
[吉行瑞子]